** *
目が覚めた。
家より見慣れた病室の天井だった。
ああ、俺、助かったのか。
最初はそう思ったが、どこかおかしなことに気づく。
目を覚ました俺に、いつも通り接する看護師さん。慣れた手つきで配膳される朝食。どこか見たことのある馴染みのメニュー。
『今日の占いコーナー! さあ、八月十日の運勢は――』
「……!?」
テレビから聞こえる占いコーナーが、聞き捨てならないことを言っていた。
八月十日? ついさっきまで、二月だったはずだ。
『一位は牡牛座のあなた。新たな恋の予感がするかも! 最下位は残念、山羊座のあなた。困難に立ち向かうことになるでしょう』
「あらー。全くんってたしか山羊座だったわよね? 困難だって。今日はおとなしくしたほうがいいんじゃない? まぁ、全くんは占いなんて信じなそうだけど――って、全くん?」
占いを見ながら、看護師さんが雑談を始める。そして様子がおかしい俺に気づいて首を傾げた。
――戻ってる。俺が余命宣告をされたあの日に。
ループするなんてありえない。だけど、ありえないことが起きているから今俺は生きている。
俺は今から、自分の余命を告げられて、来月から学校に通って……朝倉と出会うんだ。そして最後は――。
前の記憶を思い出して、俺は冷や汗が出てきた。
きっとこれは、俺なりのやり直しなんだ。同じ過ちを起こさないために、後悔を残さないために……神様が、時間を戻してくれたのかもしれない。
事態を把握すると、俺は後悔のない結末にするために動き始めた。
俺の後悔は、朝倉の未来をなくしてしまったこと。
だから、朝倉に好かれなければいい。できるだけ関わらず、遠くから見つめていればいい。
学校へ行くこと自体をやめればいいと思ったが――そこは俺のわがままを通させてもらった。
もう一度、朝倉に会いたかったのだ。前みたいな仲になれなくてもいいから、会いたかった。
小堀先生と顔合わせをした時、俺にまつわる噂がグレードアップしていたことには驚いた。病室で俺がこの先起きることを口に出していて、全部当たっていたからか、〝人の心が読める〟という噂は〝未来透視ができる〟に変わっていた。
同じように噂を流してもらうと、尾ひれをつけて噂は大袈裟な形でクラス中に広がっていた。
だが、未来が視えるというのは事実だ。視えるというよりは知っている。一度既に経験しているのだから。
二回目のやり直し。
俺は朝倉と関わらないようにしてみた。しかし、小堀先生のじゃんけんのせいで絶対に関わりを持ってしまう。
俺はここからなんと、六回もループを繰り返した。どんなにいろんなことを試しても、いつも同じ結果にたどりついてしまうのだ。その度に、目が覚めると八月十日に戻っている。
できることはやった。
最初は話しかけてくる朝倉をひたすら突き放してみた。でも、朝倉は鬼のようにしつこかった。まるでこの世界が、俺と朝倉を全力でくっつけようとしているかのように思えた。結局俺は、大好きな人を拒むことができず、朝倉を突き放すことを諦めた。
森田と付き合うという選択をしたこともあった。
でも、俺のその選択は森田を深く傷つけた。自分に好意がないということを、俺のちょっとした行動から森田は読み取れてしまったのだろう。
『ねぇ渡世くん、私のこと好き?』
『……嫌いじゃない(好きとは言えない)』
『私のこと、どう思ってる?』
『……大事、だと思う(あくまでも、クラスメイトとして)』
俺がいくら耳障りのいい言葉を並べたって、そこに心がない。
森田は不安でいっぱいになり、自ら俺の元を離れる道を選んだ。俺はそんな森田を見て、朝倉のために森田の心を弄ぶようなことは二度としてはいけないと学んだ。彼女をいちばん傷つけない方法は――きっぱりと、俺の本心を伝えてあげること。彼女の恋心を一度消化させて、新たな恋をさせてあげることだ。
修学旅行では、ちゃんとお見送りをするようにした。情けなく縋ることをしなくても、朝倉は旅行中、俺を忘れたりしなかった。
ほかにもいろいろ試したが、なにをしても変わらないのは――俺と朝倉は必ず惹かれ合い、恋に落ち――同じ結末を迎えるということ。
目が覚めた。
家より見慣れた病室の天井だった。
ああ、俺、助かったのか。
最初はそう思ったが、どこかおかしなことに気づく。
目を覚ました俺に、いつも通り接する看護師さん。慣れた手つきで配膳される朝食。どこか見たことのある馴染みのメニュー。
『今日の占いコーナー! さあ、八月十日の運勢は――』
「……!?」
テレビから聞こえる占いコーナーが、聞き捨てならないことを言っていた。
八月十日? ついさっきまで、二月だったはずだ。
『一位は牡牛座のあなた。新たな恋の予感がするかも! 最下位は残念、山羊座のあなた。困難に立ち向かうことになるでしょう』
「あらー。全くんってたしか山羊座だったわよね? 困難だって。今日はおとなしくしたほうがいいんじゃない? まぁ、全くんは占いなんて信じなそうだけど――って、全くん?」
占いを見ながら、看護師さんが雑談を始める。そして様子がおかしい俺に気づいて首を傾げた。
――戻ってる。俺が余命宣告をされたあの日に。
ループするなんてありえない。だけど、ありえないことが起きているから今俺は生きている。
俺は今から、自分の余命を告げられて、来月から学校に通って……朝倉と出会うんだ。そして最後は――。
前の記憶を思い出して、俺は冷や汗が出てきた。
きっとこれは、俺なりのやり直しなんだ。同じ過ちを起こさないために、後悔を残さないために……神様が、時間を戻してくれたのかもしれない。
事態を把握すると、俺は後悔のない結末にするために動き始めた。
俺の後悔は、朝倉の未来をなくしてしまったこと。
だから、朝倉に好かれなければいい。できるだけ関わらず、遠くから見つめていればいい。
学校へ行くこと自体をやめればいいと思ったが――そこは俺のわがままを通させてもらった。
もう一度、朝倉に会いたかったのだ。前みたいな仲になれなくてもいいから、会いたかった。
小堀先生と顔合わせをした時、俺にまつわる噂がグレードアップしていたことには驚いた。病室で俺がこの先起きることを口に出していて、全部当たっていたからか、〝人の心が読める〟という噂は〝未来透視ができる〟に変わっていた。
同じように噂を流してもらうと、尾ひれをつけて噂は大袈裟な形でクラス中に広がっていた。
だが、未来が視えるというのは事実だ。視えるというよりは知っている。一度既に経験しているのだから。
二回目のやり直し。
俺は朝倉と関わらないようにしてみた。しかし、小堀先生のじゃんけんのせいで絶対に関わりを持ってしまう。
俺はここからなんと、六回もループを繰り返した。どんなにいろんなことを試しても、いつも同じ結果にたどりついてしまうのだ。その度に、目が覚めると八月十日に戻っている。
できることはやった。
最初は話しかけてくる朝倉をひたすら突き放してみた。でも、朝倉は鬼のようにしつこかった。まるでこの世界が、俺と朝倉を全力でくっつけようとしているかのように思えた。結局俺は、大好きな人を拒むことができず、朝倉を突き放すことを諦めた。
森田と付き合うという選択をしたこともあった。
でも、俺のその選択は森田を深く傷つけた。自分に好意がないということを、俺のちょっとした行動から森田は読み取れてしまったのだろう。
『ねぇ渡世くん、私のこと好き?』
『……嫌いじゃない(好きとは言えない)』
『私のこと、どう思ってる?』
『……大事、だと思う(あくまでも、クラスメイトとして)』
俺がいくら耳障りのいい言葉を並べたって、そこに心がない。
森田は不安でいっぱいになり、自ら俺の元を離れる道を選んだ。俺はそんな森田を見て、朝倉のために森田の心を弄ぶようなことは二度としてはいけないと学んだ。彼女をいちばん傷つけない方法は――きっぱりと、俺の本心を伝えてあげること。彼女の恋心を一度消化させて、新たな恋をさせてあげることだ。
修学旅行では、ちゃんとお見送りをするようにした。情けなく縋ることをしなくても、朝倉は旅行中、俺を忘れたりしなかった。
ほかにもいろいろ試したが、なにをしても変わらないのは――俺と朝倉は必ず惹かれ合い、恋に落ち――同じ結末を迎えるということ。