大事そうにマフラーをぎゅっと掴む渡世の瞳はとても優しくて、空に浮かぶ星みたいに輝いていた。マフラーのことを言っているのに、まるで自分に言われているかにように錯覚してしまう。心臓がドキドキする。
「……渡世の言ってること、当たってたと思う」
「……?」
気づけば私は、今の素直な気持ちを渡世にぶつけていた。
「会えない時間、渡世のことばっかり考えてた。今日渡世の顔を見た時にね、すっごく嬉しかったの。同時によくわからない気持ちが込み上げてきて……でも、今までわからないと思っていたその気持ちがなんなのか、やっとわかった気がする」
恋をしたことがないからこの気持ちの正体がわからない。私はずっとそうやって〝わからない〟を言い訳にしていた。この気持ちに気づくことも、正体を知ることも怖かった。だって――。
「渡世の未来透視は、当たってたよ。……まだ半分だけど」
私が渡世を好きになる。それを正解にしてしまうと、そのあとに起きることも当たるんじゃないかって思ったから。
「……だろ? 俺の予想は当たるんだ」
「……うん」
「なんでそんな暗い顔するんだよ」
「だって、本当に当たるなら渡世は――」
「馬鹿。そうならないために、お前は俺のボディガードになったんだろ」
軽く頭をどつかれた。痛くはない。笑っている渡世を見ると、私の怖い気持ちも消えていく。
「そうだね。それに、あとちょっとだもん。桜が咲く頃には、私たちは未来に勝ったことになるね」
「ああ。そうだ」
私は渡世が好きだ。
もう、渡世がいない日常が考えられない。悔しいけど、渡世の言う通りになった。今の私から渡世をとったら、なにを楽しみに生きて行けばいいのかわからない。
「朝倉」
渡世は私の名前を呼ぶと、私の手を握った。手袋もしてなければカイロを持っているわけでもない。温かいドリンクは外の寒さに負けてすっかり冷たくなっていて、私たちの冷めきった手を温めるのは互いの体温だけ。
私も渡世の手を握り返して、自然と上目遣いで渡世を見上げた。渡世は瞳を細めると、慈しむような眼差しで私を見た。なにも言わなくても、私はその目を見るだけで渡世の気持ちがわかった気がした。
「俺も、お前と同じ気持ち。ずっと前から、お前のことだけ考えてる」
言葉にまでされたら、ちょっと照れくさい。 どうして渡世が私を好きになってくれたのかわからない。だけど私も、気づけば渡世を好きになっていた。好きになった理由なんて、明確に探すほうが難しいのかもしれない。
私はなにも言えず、ただ小さく頷いた。好きだとか、付き合おうとか、そういう言葉は口にしないけど――私たちは、たしかに同じ気持ちなのだ。
今はそれだけでいい。それを知れただけでいい。関係を変えたいとか前に進みたいとか、そういうことは何故か思わなかった。たぶん、今のままでじゅうぶん満たされているからだ。渡世と一緒にいるだけで幸せなのに、これ以上のことを知るには恋愛経験ゼロの私には早すぎる。
「今日、今まででいちばん最高の誕生日だった。絶対に忘れない」
噛みしめるように渡世は言った。
「うん。来年も一緒に祝えたらいいなぁ」
「……そうだな」
できればこの先ずっと、渡世と一月四日を過ごせたらいいのに。
本格的に冷え込む前に、私たちは手を繋いだまま歩き始めた。ついさっきまでただの仲良しなクラスメイトだったはずが、手を繋いでいるだけでまったく別の関係に見えるから不思議だ。
「ここまででいい。送ってくれてありがとな。ボディガードさん」
渡世は冗談っぽく言う。私がボディガードというのは事実なのに、そう呼ばれるとさっきより距離が遠くなった気がしてどこか寂しい。私だけが変に盛り上がっているように思えて、繋いだ手は自分から離してしまった。
「じゃあ、また来週ね」
三日後には三学期が始まる。またすぐ会える。別れを惜しむ場面じゃない。
そう言い聞かせて、私は渡世に手を振った。
「……じゃあな、朝倉」
渡世の返事を聞いて、私は背を向けて歩き出した。
体に吹つける風は冷たいのに、繋いでいた手と顔が熱い。家に帰るまでに真っ赤になっているであろう顔を普通に戻しておかないと、絶対にお母さんにからかわれる。
「……渡世の言ってること、当たってたと思う」
「……?」
気づけば私は、今の素直な気持ちを渡世にぶつけていた。
「会えない時間、渡世のことばっかり考えてた。今日渡世の顔を見た時にね、すっごく嬉しかったの。同時によくわからない気持ちが込み上げてきて……でも、今までわからないと思っていたその気持ちがなんなのか、やっとわかった気がする」
恋をしたことがないからこの気持ちの正体がわからない。私はずっとそうやって〝わからない〟を言い訳にしていた。この気持ちに気づくことも、正体を知ることも怖かった。だって――。
「渡世の未来透視は、当たってたよ。……まだ半分だけど」
私が渡世を好きになる。それを正解にしてしまうと、そのあとに起きることも当たるんじゃないかって思ったから。
「……だろ? 俺の予想は当たるんだ」
「……うん」
「なんでそんな暗い顔するんだよ」
「だって、本当に当たるなら渡世は――」
「馬鹿。そうならないために、お前は俺のボディガードになったんだろ」
軽く頭をどつかれた。痛くはない。笑っている渡世を見ると、私の怖い気持ちも消えていく。
「そうだね。それに、あとちょっとだもん。桜が咲く頃には、私たちは未来に勝ったことになるね」
「ああ。そうだ」
私は渡世が好きだ。
もう、渡世がいない日常が考えられない。悔しいけど、渡世の言う通りになった。今の私から渡世をとったら、なにを楽しみに生きて行けばいいのかわからない。
「朝倉」
渡世は私の名前を呼ぶと、私の手を握った。手袋もしてなければカイロを持っているわけでもない。温かいドリンクは外の寒さに負けてすっかり冷たくなっていて、私たちの冷めきった手を温めるのは互いの体温だけ。
私も渡世の手を握り返して、自然と上目遣いで渡世を見上げた。渡世は瞳を細めると、慈しむような眼差しで私を見た。なにも言わなくても、私はその目を見るだけで渡世の気持ちがわかった気がした。
「俺も、お前と同じ気持ち。ずっと前から、お前のことだけ考えてる」
言葉にまでされたら、ちょっと照れくさい。 どうして渡世が私を好きになってくれたのかわからない。だけど私も、気づけば渡世を好きになっていた。好きになった理由なんて、明確に探すほうが難しいのかもしれない。
私はなにも言えず、ただ小さく頷いた。好きだとか、付き合おうとか、そういう言葉は口にしないけど――私たちは、たしかに同じ気持ちなのだ。
今はそれだけでいい。それを知れただけでいい。関係を変えたいとか前に進みたいとか、そういうことは何故か思わなかった。たぶん、今のままでじゅうぶん満たされているからだ。渡世と一緒にいるだけで幸せなのに、これ以上のことを知るには恋愛経験ゼロの私には早すぎる。
「今日、今まででいちばん最高の誕生日だった。絶対に忘れない」
噛みしめるように渡世は言った。
「うん。来年も一緒に祝えたらいいなぁ」
「……そうだな」
できればこの先ずっと、渡世と一月四日を過ごせたらいいのに。
本格的に冷え込む前に、私たちは手を繋いだまま歩き始めた。ついさっきまでただの仲良しなクラスメイトだったはずが、手を繋いでいるだけでまったく別の関係に見えるから不思議だ。
「ここまででいい。送ってくれてありがとな。ボディガードさん」
渡世は冗談っぽく言う。私がボディガードというのは事実なのに、そう呼ばれるとさっきより距離が遠くなった気がしてどこか寂しい。私だけが変に盛り上がっているように思えて、繋いだ手は自分から離してしまった。
「じゃあ、また来週ね」
三日後には三学期が始まる。またすぐ会える。別れを惜しむ場面じゃない。
そう言い聞かせて、私は渡世に手を振った。
「……じゃあな、朝倉」
渡世の返事を聞いて、私は背を向けて歩き出した。
体に吹つける風は冷たいのに、繋いでいた手と顔が熱い。家に帰るまでに真っ赤になっているであろう顔を普通に戻しておかないと、絶対にお母さんにからかわれる。