渡世の家で鍋を囲んだように、今日は私の家でみんなでご馳走を囲む。渡世はどの料理も美味しそうに食べており、お母さんは腕を振るった甲斐があったと大満足していた。
「それより、うちで過ごしてよかったの? 渡世くんのご両親もお祝いしたかったんじゃない?」
「いえ。両親はむしろ〝行ってこい〟って喜んで見送ってくれました」
「あらあら。優しいご両親ね。いつかお礼を言わないと。この前も渡世くんの家にはご迷惑かけちゃったから」
お母さんが渡世とそんな話をしていると、お父さんが不思議そうな顔をする。
「この前ってなんだ?」
「お、お父さんには秘密! ねぇ、そろそろケーキ食べようよ!」
あぶない。お父さんには渡世の家に泊まったことは内緒にしていたんだった。誤魔化すようにお母さんにケーキの話題を振ると、お母さんも状況を察してお父さんの質問をスルーして冷蔵庫へと向かった。
火の灯ったろうそくが刺さったホールケーキをお母さんが運んでくる。部屋の電気を消して、ハッピーバースデーを歌い終えると渡世がろうそくの火を消した。なんの変化球もないベタな祝い方だ。
私の選んだ甘さ控えめのチョコレートケーキは渡世の舌に合ったようで、まるで私が作ったかのようにべた褒めしながら食べてくれた。普段あまり量を食べないイメージのある渡世が誰よりもご飯とケーキを食べていたことに驚きつつも、無理をしていないか心配にもなった。
「じゃあ、ここからはお若いふたりの時間ね」
ケーキを食べ終わると、お母さんがにやにやとやらしい笑みを浮かべてそう言った。思ったよりご飯の時間が長引いてしまったので、そろそろ渡世も帰らなくてはならない時間だ。
私は渡世にプレゼントを渡そうと思ったが、家で渡すのが恥ずかしくて渡世に外を散歩しないかと提案した。帰り道のどこかのタイミングでプレゼントを渡そうと思ったのだ。
お母さんが家にある駄菓子を好きなだけ持って行っていいよと言ったので、家を出る前に渡世は真剣な顔をして駄菓子を選んでいた。新商品が出ているとか、前に来た時に買ったのとは別の味が食べたいとか、時折目を輝かせて私に駄菓子の話を熱弁する渡世は、今日十七歳になったばかりというのにもっと子供に見えた。普段はずっと大人に見えるのに。
袋いっぱいの駄菓子を抱えた渡世と外に出る。一月の夜風は思ったよりも冷たくて、私は開けっ放しにしていた白いダウンジャケットのファスナーをいちばん上まで締めた。
「ちょっとそこに寄らない?」
いつも私たちが解散する信号までの道中に小さな公園がある。
私はそこに渡世を誘い、自販機で温かいココアとコーヒーを買ってベンチに座った。空にはたくさんの星が浮かんでいる。寒いけど、温かい飲み物を飲みながら夜空を見つめるのも悪くないななんて思った。今までの私は、星を見たって心が動くことなどなかったのに。
横を見ると、渡世も星を見上げていた。同じ空を眺めながら、渡世は今なにを考えているのだろう。
「渡世、これあげる。誕生日プレゼント」
渡世の視線が星から私へと移った。
「ああ。ありがとう。……開けていいか?」
「うん。言っとくけど、大した物じゃないからあんまり期待しないでよ」
私から紙袋を受け取って、渡世はラッピングされた包みを丁寧に解いていく。
「……マフラーだ」
中身を見て渡世が呟いた。私は誕生日プレゼントにシンプルなマフラーを選んだ。黒に近いネイビー色のマフラーだ。ちょっと大人びた色が渡世にぴったりだと思い、迷うことなくこれに決めた。マフラーにした理由は――。
「十二月になったらみんなマフラーしてたのに、渡世はしてなかったから。これからもっと寒くなるし絶対必要と思って」
周りがみんなマフラーをしている中で、渡世だけいつも首元が寂しそうだったからだ。
理由を聞いた渡世は黙って、新品のマフラーを見つめている。
「あ、もしかしてマフラー巻かない主義だったり? だとしたらごめ――」
「いいや。そんなことない。……ありがとう。早速使わせてもらう」
一瞬、プレゼントのチョイスをミスしたかと焦ったが大丈夫のようだ。
渡世は言葉通りその場で自分の首にマフラーを巻くと、口元まで巻き付いたところを片手で下げて、自慢げに微笑む。
「似合うか?」
「うん。似合うと思って選んだもん」
そんな渡世に、私も自慢げに笑ってみせる。
「ありがとう。ずっとずっと、大切にする」
「それより、うちで過ごしてよかったの? 渡世くんのご両親もお祝いしたかったんじゃない?」
「いえ。両親はむしろ〝行ってこい〟って喜んで見送ってくれました」
「あらあら。優しいご両親ね。いつかお礼を言わないと。この前も渡世くんの家にはご迷惑かけちゃったから」
お母さんが渡世とそんな話をしていると、お父さんが不思議そうな顔をする。
「この前ってなんだ?」
「お、お父さんには秘密! ねぇ、そろそろケーキ食べようよ!」
あぶない。お父さんには渡世の家に泊まったことは内緒にしていたんだった。誤魔化すようにお母さんにケーキの話題を振ると、お母さんも状況を察してお父さんの質問をスルーして冷蔵庫へと向かった。
火の灯ったろうそくが刺さったホールケーキをお母さんが運んでくる。部屋の電気を消して、ハッピーバースデーを歌い終えると渡世がろうそくの火を消した。なんの変化球もないベタな祝い方だ。
私の選んだ甘さ控えめのチョコレートケーキは渡世の舌に合ったようで、まるで私が作ったかのようにべた褒めしながら食べてくれた。普段あまり量を食べないイメージのある渡世が誰よりもご飯とケーキを食べていたことに驚きつつも、無理をしていないか心配にもなった。
「じゃあ、ここからはお若いふたりの時間ね」
ケーキを食べ終わると、お母さんがにやにやとやらしい笑みを浮かべてそう言った。思ったよりご飯の時間が長引いてしまったので、そろそろ渡世も帰らなくてはならない時間だ。
私は渡世にプレゼントを渡そうと思ったが、家で渡すのが恥ずかしくて渡世に外を散歩しないかと提案した。帰り道のどこかのタイミングでプレゼントを渡そうと思ったのだ。
お母さんが家にある駄菓子を好きなだけ持って行っていいよと言ったので、家を出る前に渡世は真剣な顔をして駄菓子を選んでいた。新商品が出ているとか、前に来た時に買ったのとは別の味が食べたいとか、時折目を輝かせて私に駄菓子の話を熱弁する渡世は、今日十七歳になったばかりというのにもっと子供に見えた。普段はずっと大人に見えるのに。
袋いっぱいの駄菓子を抱えた渡世と外に出る。一月の夜風は思ったよりも冷たくて、私は開けっ放しにしていた白いダウンジャケットのファスナーをいちばん上まで締めた。
「ちょっとそこに寄らない?」
いつも私たちが解散する信号までの道中に小さな公園がある。
私はそこに渡世を誘い、自販機で温かいココアとコーヒーを買ってベンチに座った。空にはたくさんの星が浮かんでいる。寒いけど、温かい飲み物を飲みながら夜空を見つめるのも悪くないななんて思った。今までの私は、星を見たって心が動くことなどなかったのに。
横を見ると、渡世も星を見上げていた。同じ空を眺めながら、渡世は今なにを考えているのだろう。
「渡世、これあげる。誕生日プレゼント」
渡世の視線が星から私へと移った。
「ああ。ありがとう。……開けていいか?」
「うん。言っとくけど、大した物じゃないからあんまり期待しないでよ」
私から紙袋を受け取って、渡世はラッピングされた包みを丁寧に解いていく。
「……マフラーだ」
中身を見て渡世が呟いた。私は誕生日プレゼントにシンプルなマフラーを選んだ。黒に近いネイビー色のマフラーだ。ちょっと大人びた色が渡世にぴったりだと思い、迷うことなくこれに決めた。マフラーにした理由は――。
「十二月になったらみんなマフラーしてたのに、渡世はしてなかったから。これからもっと寒くなるし絶対必要と思って」
周りがみんなマフラーをしている中で、渡世だけいつも首元が寂しそうだったからだ。
理由を聞いた渡世は黙って、新品のマフラーを見つめている。
「あ、もしかしてマフラー巻かない主義だったり? だとしたらごめ――」
「いいや。そんなことない。……ありがとう。早速使わせてもらう」
一瞬、プレゼントのチョイスをミスしたかと焦ったが大丈夫のようだ。
渡世は言葉通りその場で自分の首にマフラーを巻くと、口元まで巻き付いたところを片手で下げて、自慢げに微笑む。
「似合うか?」
「うん。似合うと思って選んだもん」
そんな渡世に、私も自慢げに笑ってみせる。
「ありがとう。ずっとずっと、大切にする」