次の日。
 昨日の放課後作ったくじで、修学旅行の部屋決めが行われた。
 高遠はもちろん、ゆかりも今日は一度も私に絡んでこない。ふたりは昨日手伝ったことなんてなかったかのようにくじ引きに参加している。
 
 ――私の部屋は……よかった。ゆかりとは別だ。

 同じ部屋じゃなかったことに、少し安堵してしまった。

「あれ。渡世、くじ引かねぇの?」

 教卓周辺に人が集まりざわつく教室内で、ひとり大人しく窓の外を眺めている渡世にクラスメイトが声をかけた。

「渡世は家庭の事情で修学旅行は不参加なんだ。みんなに言い忘れてたな。すまんすまん」

 渡世のかわりに小堀先生が返事をする。渡世が参加しないことを知ったクラスメイト達は、昨日の私と同じように驚いていた。

「渡世、旅行先で顔差すから不参加だったりする?」
「馬鹿。透視の仕事が忙しくて遊んでる暇なんてないんだろ」

 私の近くでは、渡世に関する勝手な妄想話が繰り広げられていた。
 団体行動が嫌いだからと渡世は言っていたが、それが本当なのかは私もわからない。……運動が嫌いってだけで体育を休むくらいなので、ありえない話ではないか。

「紬、知ってたの?」
「……えっ?」

 止まない妄想話を盗み聞きして楽しんでいると、急に声をかけられた。顔を上げれば、不満げな顔を浮かべたゆかりが私の机の前に立っていた。

「渡世くんが来ないこと、知ってたの?」

 怒りが込められた声色に緊張が走る。

「まさか。知らなかったよ。昨日ゆかりたちが帰ってから初めて聞いて、私も驚いたくらい」

知ってて私がこの前、ゆかりの渡世に対する想いを聞いていたとしたら、ゆかりにとっては不愉快極まりないことだ。

「……なんだ。そうだったの」

私が知らなかったことがわかり、ゆかりの険しい表情が心なしか和らいだ。

「それじゃあ、今日聞いた私たちとあんまり変わらないんだね。……渡世くんにとって、紬って案外そこまでの存在なんだ?」

 今度は怒りでなく明らかな悪意が込められた物言いに、私はぐさりと心臓を抉られたような気分になった。

 あれ。もしかして私、ゆかりの言葉に傷ついてる?
 言葉というより、渡世にとって〝そこまでの存在〟と言われたことがやけに引っかかる。別に間違ってはいないのに、認めたくないと思ってしまう。

「……そうだね」

 だけど私は生きづらいのを避けるために、本心とは逆のことを言ってその場を収めようとした。

「……ごめん。嫌味だった。忘れて」

 そう言って、ゆかりはクラスメイトの輪の中に戻っていった。苦しそうな顔をするゆかりを見て、まだ渡世のことが好きなのだと悟った。