月が真っ暗闇の世の中を照らす頃やっとついた。毎回切ってもらってる散髪屋だ。ここなら誰にも見られない。しかも、この時間だ。こんなところまで出歩く必要がないほど至って変わらない町並みだ。今日のように、本名を使わなくていい予約はすべて「一瀬 玲王」を使う。服も無理矢理レディースコーデにしなくていい。ジャケットにズボンというメンズコーデでいい。これを着ることによって肩の力は抜ける。学校に行くだけで神経を研ぎ澄ませないといけないため、体力の消耗が激しい。
「お兄ちゃん、髪型どうする?」
 これだけすれば、お兄ちゃん=男性ということで私のことが女子には見えてないのだろう。やはり男性として見られている視線は気持ちが良い。この視線もスキ。遠くまで来たかいがあった。
「センター分けで」
 髪型はセンター分けと決まっている。とくに理由はないが「男子らしさ」一択だ。他にも男子らしさを象徴する髪型なんて何通りもあるだろう。しかし、梓たちと遊びに行ったようにあくまでも私は女子の分類だ。もちろん意図してではないが周りからしたら女子なので誘われることもあるためツーブロックやモヒカンなどではなくセンター分けが最適と考えた。考えてみたら4年前から、ずっとセンター分けだった。
 
 遠い道のりからやっと家に帰り着いた。母と二人暮らしだったが母はおらずガランとした家だった。夕ご飯でも買いに行ったんだろう。ご飯までの時間はまだある。特にすることはないが、リビングにいてもすることはない。いつも通り静かに階段を上がり、自分の部屋に引きこもった。