「はじめまして。私一瀬玲緒と申します。ご会い出来て嬉しいです。」
「こちらこそですよ。僕笹枝悠月と申します。玲緒ちゃんの二個上かな。ぜひ玲緒ちゃんのお話聞かせてください。」
ちゃん―。最近は聞き慣れていない「玲緒ちゃん」その響きを頭の中で巡らせて、遥真のときのようにまた顔がニヤける。前までちゃん付け嫌いだったのに。変わったな私。
「私自身幼稚園の頃から薄々と陰で私の名前の悪口、批判など小さいながら気付いていて―。」
こんな感じで私の思うままにつらつらと言葉を並べた。
「最近彼氏に別れを告げたばっかなんです。未だにまだ好きなんです。大好きなんです。けど授業でトランスジェンダーについて学びました。みんな私を誤解の目で見てきます。彼も変な肩書きをつけられていて、迷惑をかけたくなかったんです。だから、私の方から『終わりにしよう。』そう告げました。苦しくても嫌でも、私は好きだからこそ必死に考えた結果だったんです。後悔はありません。けど、二人でもう一度過ごしたいという考えは私はずるいと思いながらも止められません。」
私は気づかずに涙が落ちてきていた。静かに悠月さんは私の話を聞いてくれたことに感謝しかない。
「それは辛かったよね。ありがとう。話してくれて。」私はこの言葉に救われた。生涯で初めてかもしれない。心が軽くなったということを体験した。
「僕はね名前のせいで僕は女の子なのかもって思ってたんだ。だから、女の子とずっと遊んでた。しかも、僕って鈍感らしくってそもそも悪口言われてたの気づいていなかったんだ。それもそれで楽だったんだけど。けど、中学校でいじめられた。小学校では幼稚園からの友達もいて理解してくれていた人が多くてそのまま中学校でも頑張ろうとおもっていたんですけど。僕が通っていた中学校は全校の人数が多くて。その分色々な考えの人がいて。それに気付いた二年生の途中から考え方が変わって。そんなに人数がいるなら数人くらい理解してくれない人がいるということを考えるようになって。そうするとなんか気が楽になって。そして、一人親友と呼べる人もできて。そんな感じで今が在るんです。」
あぁ、私とは違う。なんかなにもかもが違う。私と同じ境遇とは感じられない。違う境界線にいるようで。本当に私に似ていたのだろうか。尊敬の文字しか出てこない。
「すごいですね。私とは大違いで。なんというか自信に満ち溢れていて。」
「そんなことないよ。ちゃんと玲緒ちゃんのような時だってありましたよ。それが普通です。しかも、周りにも恵まれていたし。だから、僕で良ければ話を聞くよ。少しでも力になりたい。僕は僕に似た人がいるなんて知らなかった。自分に出来ることはしていきたい。たった一人の体験談で助けていきたい。」
こんな優しい言葉をかけてこないでよ。もう二度と周りに迷惑なんてかけたくないのに。あーあ。
また泣けてきた。自分の醜さと悠月さんのすごさと比べてしまって、その差が大きいことに気づいて。
「ごめんなさい。今日はありがとうございました。また相談乗ってください。すみません。」
この「すみません。」を何度も何度も噛み締めながら何も頼んでない店内を出た。来てもらったのに申し訳ない気持ちはあったけどもう心が張り裂けそうだった。
後ろはもう振り向かない。あんな優しい悠月さんならきっと探してくれているはず。はず。こんなことしてごめんなさい。悠月さんの優しいさを踏みにじるようにして。