またね、
彼女は寂しく笑っていた。
あの時、彼女は知っていたのだろうか。
自身の身に起こることを。
問いかけても答えてくれる彼女はもう、いない。
早すぎる。
…俺が遅すぎたのか?
まだ、なにも返していないのに。
彼女に貰ってばかりだったのに。
こんなこと、あっていいわけない。
でも。
もう、彼女は、いない。
それでも。
俺はいつまでも待つから。
いつか、必ず返事を聴かせて下さい。
せめて笑顔で、“また、いつか”
【……それは我侭だと思う。】
「…」
【あいつはそれを望まないと思うし、俺も嫌だ。】
「…」
【いい加減前向けよ。振り返ってばかりいたってあいつは帰ってこない。お前も前に進めない。】
「………そうですね」
【……………?】
「ありがとうございます、先輩。俺、大切なことを忘れていました。」
今までありがとう。
そして、ごめんね。
わたしにはこれしかできなかった。
約束、守れなくてごめん。
これから、辛いことがたくさんあると思う。
そんなときは前を向いてください。歩み出す勇気を、持ってください。
過去を振り返ってもなにもできないよ。
最後に。
また、いつか。
笑顔で逢えたらいいね。
大好きです。
「…っ」
あの時、俺が追いかけていれば。
もっと早く、気づいていれば
《わたし、●●に行こうと思ってる。》
未来について語る彼女はとても楽しそうで。
希望に満ちたきらきらした目で俺を見上げて話してくれる。
…いやだ、なんて言えないじゃないか。
その未来に俺はいますか?
“いらっしゃいませ、何をお探しでしょうか?”
「大切なひとに贈りたいんですけど…」
《はい、おつかれさまです。
ご用は、………え?
はい、はい……えと、それは……
はい…本当ですか?
分かりました、考えておきます。》
「なんの電話ー?」
《会社から》
「ふーん」
《ねぇ、どう思「いいと思うよ。」
《…え?》
「だって、それ、夢じゃん」
《…そーだね》
夢、か。
貴方はほんとうにいいの?
運命は変えられない。
誰にも決められない。
…だとしても。
「は…?」
ねぇ、待って、いかないでよ、
「おい、おいって、」
いかないで、お願い、いかないで
「っまてよ、っ」
《ま・た・ね》
口パクを読めてしまった自分を憎む。
「っそんなこと、言うなよ…っ」
《…大丈夫?》
「…?」
《すごいうなされてたけど、大丈夫?》
「…」
《……おーい?》
覗き込む彼女の顔は前よりもやつれて見えた。
「大丈夫?」
《えっ?》
「疲れてない?」
《…そんなことないよ》
「そう?隠してない?」
《だいじょーぶ、隠し事はしないって約束したじゃん》
「…そうだね」
あの時、気づいてほしかったな。
《ねえ、過去を振り返るばかりで何になれるの?》
「…」
《悔しいって気持ちを吐き出すだけじゃダメなんだよ。この気持ちを、繋げなきゃ。》
「…」
《もう、終わったことなんだよ。これからを見据えなきゃ》
「…」
《ほら、》
そう言って明後日の方向を指さして、困ったように微笑む彼女。
《諦めたらそこで試合終了なんだよ?》
「…それ、スラムダンク…」
「…は?」
《私には夢がある。貴方にも夢がある。このままだと共倒れる。そう言ってるの。》
「は?」
《好きだったよ、ありがとうね》
そう言って困ったように微笑み、立ち去る彼女
いつまとめたのか、左手に旅行鞄を持っている
《またね》
…あぁ、正夢になってしまった
手を振って玄関から出て行く君。
俺はいつから君の鳥籠になってしまったのか。
《また、いつか》
言いたいことは沢山あった。
涙が溢れ出す。
視界が歪む。
涙が、君を遮る前に
「…また、いつか」
さいごくらい笑って送るよ
{あのぉ、せんぱぁい、結婚しないんですかぁ?}
「んー…とっても大好きな人がいるから、しないの」
{えー?そんな人よりぃ、私の方がぁ、「ごめん、行かなきゃ」
「あっ…」
おひつを開けたら2合の米
「…」
ソファはいつも左に座ってしまう
「いってきます」
「ただいま」
誰か返してくれるんじゃないかって期待してしまう
時が止まったようにそのままのものたち
「…」
ピー
そうだ、コーヒーを淹れようと思っていたんだった
「あ」
また、やってしまった
まあ、いいか
彼女の写真の前に置く。
仏壇はない。線香もない。あるのは二つの指輪。
《わたし、死ぬときは誰も知らないところで朽ち果てたい》
…いっそ、そうなってしまえばよかったのに
指輪の一つを手に取り、左手の薬指にはめる。
少しゆるくなってしまった指輪。
「…そんなに経つのか」
俺と彼女の“証”
人が死ぬとき、一番最後まで残る感覚は聴覚。
人が死んだ後、一番最初に忘れてしまうのは声。
「また、いつか」
彼女はさいご、何を聴いたのか。
「…」
玄関に立ち尽くしてどれくらい経っただろうか。
鞄の底に入れていた、婚約指輪。
あたりまえが、続くとおもってた。
ぼんやりと玄関の扉を見つめる。
もう、かえってこないのだろうか。
俺が、彼女の翼を奪ってしまったのか。
自由に、何処へでもいける真っ白な翼。
…彼女は、自由になるべきだったんだ。
俺には、不釣り合いだったんだ。
俺は、
風が吹き抜ける、見晴らしのいい丘
彼女は空を見上げるのが好きだった。
それは、高校の頃から。
有給休暇は毎年この日に絶対取っていた。
彼女がこの世にいたさいごの日。
「遅くなってごめん」
今年は半休しか取れなかったけど。
イチゴノキが風にゆれる
寒空を見上げると、一番星が光っていた。
「…もう7時か」
何も食べる気はしなかったが、明日も仕事だから何か胃に入れなければ。
のろのろと夕飯のカップラーメンを準備する。
3分のタイマーをセットし、暇になったためテレビをつける。
〔…続いてのニュースです。今日、午後6時半頃、××市◆丁目の交差点で、信号待ちをしていた女性にトラックが突っ込むという事故が発生しました。〕
画面の右端にはLIVEの文字
そこは、痛ましい景色がひろがっていた。
地面にこびりついた真っ赤な血
トラックは向かいの商業ビルに突っ込んで横転していた。
〔…警察は、女性の身元を確認中です〕
ん?
一瞬映った布切れ
…あの色合い
まさか、そんなわけ、
考えるよりも体が動いていた。
「はっ、はっ、はっ、」
事故現場へ向かう。
LINEは既読がつかない、電話は通じない。
「っそんなわけ、」
救急車の音が近くなる。
野次馬だらけの交差点。
スマホでネットニュースを確認する。
〔…女性は、××市在住の◯◯さんだと「…は?」
そんな、わけ、
顔に白い布を被せられ、彼女は横たわっていた。
「っなんで、」
涙が溢れ出す。
ポケットに入れていた指輪を取り出す。
「…俺と、結婚してください…っ」
何年も前から言おうとおもってた。
絶対、明日言おうとおもってた。
でも、もう彼女に明日はやってこない。
返事をしてくれる彼女は、もう、いない。
何も、答えては、くれない。
彼女の手をとって指輪をはめる。
つめたく、ひえきっていた。
数年前の彼女の指にはピッタリであったろう指輪は、今ではおさえていなければ外れてしまう。
「え…」
気づかなかった。
気づけなかった。
〈…失礼します〉
「…」
「…彼女、余命宣告されていたんですよ」
「…」
「もってあと一週間の命でした。」
「…」
っなんで、俺は、知らなかったんだ。
「っ約束、破ってんじゃねーよ…」
…歩み出さなければ。
彼女は“またね”と言った。
いつか、逢える日が来るのなら。
今の俺じゃあ、愛想を尽かされてしまう。
俺の中で彼女の存在は大きくなりすぎた。
いつのまにか隣にいて、いきなり居なくなってしまった。
君はもう見えない。
もう、見えない。
でも、きっと。
どこかで見守ってくれているはず。
「ありがとう」
写真の中の彼女に微笑む。
微笑み返してくれたような気がした。
桜の季節。
見上げれば、白い鳥が朝焼けの空を飛んでいた。
また、いつか。
彼女は寂しく笑っていた。
あの時、彼女は知っていたのだろうか。
自身の身に起こることを。
問いかけても答えてくれる彼女はもう、いない。
早すぎる。
…俺が遅すぎたのか?
まだ、なにも返していないのに。
彼女に貰ってばかりだったのに。
こんなこと、あっていいわけない。
でも。
もう、彼女は、いない。
それでも。
俺はいつまでも待つから。
いつか、必ず返事を聴かせて下さい。
せめて笑顔で、“また、いつか”
【……それは我侭だと思う。】
「…」
【あいつはそれを望まないと思うし、俺も嫌だ。】
「…」
【いい加減前向けよ。振り返ってばかりいたってあいつは帰ってこない。お前も前に進めない。】
「………そうですね」
【……………?】
「ありがとうございます、先輩。俺、大切なことを忘れていました。」
今までありがとう。
そして、ごめんね。
わたしにはこれしかできなかった。
約束、守れなくてごめん。
これから、辛いことがたくさんあると思う。
そんなときは前を向いてください。歩み出す勇気を、持ってください。
過去を振り返ってもなにもできないよ。
最後に。
また、いつか。
笑顔で逢えたらいいね。
大好きです。
「…っ」
あの時、俺が追いかけていれば。
もっと早く、気づいていれば
《わたし、●●に行こうと思ってる。》
未来について語る彼女はとても楽しそうで。
希望に満ちたきらきらした目で俺を見上げて話してくれる。
…いやだ、なんて言えないじゃないか。
その未来に俺はいますか?
“いらっしゃいませ、何をお探しでしょうか?”
「大切なひとに贈りたいんですけど…」
《はい、おつかれさまです。
ご用は、………え?
はい、はい……えと、それは……
はい…本当ですか?
分かりました、考えておきます。》
「なんの電話ー?」
《会社から》
「ふーん」
《ねぇ、どう思「いいと思うよ。」
《…え?》
「だって、それ、夢じゃん」
《…そーだね》
夢、か。
貴方はほんとうにいいの?
運命は変えられない。
誰にも決められない。
…だとしても。
「は…?」
ねぇ、待って、いかないでよ、
「おい、おいって、」
いかないで、お願い、いかないで
「っまてよ、っ」
《ま・た・ね》
口パクを読めてしまった自分を憎む。
「っそんなこと、言うなよ…っ」
《…大丈夫?》
「…?」
《すごいうなされてたけど、大丈夫?》
「…」
《……おーい?》
覗き込む彼女の顔は前よりもやつれて見えた。
「大丈夫?」
《えっ?》
「疲れてない?」
《…そんなことないよ》
「そう?隠してない?」
《だいじょーぶ、隠し事はしないって約束したじゃん》
「…そうだね」
あの時、気づいてほしかったな。
《ねえ、過去を振り返るばかりで何になれるの?》
「…」
《悔しいって気持ちを吐き出すだけじゃダメなんだよ。この気持ちを、繋げなきゃ。》
「…」
《もう、終わったことなんだよ。これからを見据えなきゃ》
「…」
《ほら、》
そう言って明後日の方向を指さして、困ったように微笑む彼女。
《諦めたらそこで試合終了なんだよ?》
「…それ、スラムダンク…」
「…は?」
《私には夢がある。貴方にも夢がある。このままだと共倒れる。そう言ってるの。》
「は?」
《好きだったよ、ありがとうね》
そう言って困ったように微笑み、立ち去る彼女
いつまとめたのか、左手に旅行鞄を持っている
《またね》
…あぁ、正夢になってしまった
手を振って玄関から出て行く君。
俺はいつから君の鳥籠になってしまったのか。
《また、いつか》
言いたいことは沢山あった。
涙が溢れ出す。
視界が歪む。
涙が、君を遮る前に
「…また、いつか」
さいごくらい笑って送るよ
{あのぉ、せんぱぁい、結婚しないんですかぁ?}
「んー…とっても大好きな人がいるから、しないの」
{えー?そんな人よりぃ、私の方がぁ、「ごめん、行かなきゃ」
「あっ…」
おひつを開けたら2合の米
「…」
ソファはいつも左に座ってしまう
「いってきます」
「ただいま」
誰か返してくれるんじゃないかって期待してしまう
時が止まったようにそのままのものたち
「…」
ピー
そうだ、コーヒーを淹れようと思っていたんだった
「あ」
また、やってしまった
まあ、いいか
彼女の写真の前に置く。
仏壇はない。線香もない。あるのは二つの指輪。
《わたし、死ぬときは誰も知らないところで朽ち果てたい》
…いっそ、そうなってしまえばよかったのに
指輪の一つを手に取り、左手の薬指にはめる。
少しゆるくなってしまった指輪。
「…そんなに経つのか」
俺と彼女の“証”
人が死ぬとき、一番最後まで残る感覚は聴覚。
人が死んだ後、一番最初に忘れてしまうのは声。
「また、いつか」
彼女はさいご、何を聴いたのか。
「…」
玄関に立ち尽くしてどれくらい経っただろうか。
鞄の底に入れていた、婚約指輪。
あたりまえが、続くとおもってた。
ぼんやりと玄関の扉を見つめる。
もう、かえってこないのだろうか。
俺が、彼女の翼を奪ってしまったのか。
自由に、何処へでもいける真っ白な翼。
…彼女は、自由になるべきだったんだ。
俺には、不釣り合いだったんだ。
俺は、
風が吹き抜ける、見晴らしのいい丘
彼女は空を見上げるのが好きだった。
それは、高校の頃から。
有給休暇は毎年この日に絶対取っていた。
彼女がこの世にいたさいごの日。
「遅くなってごめん」
今年は半休しか取れなかったけど。
イチゴノキが風にゆれる
寒空を見上げると、一番星が光っていた。
「…もう7時か」
何も食べる気はしなかったが、明日も仕事だから何か胃に入れなければ。
のろのろと夕飯のカップラーメンを準備する。
3分のタイマーをセットし、暇になったためテレビをつける。
〔…続いてのニュースです。今日、午後6時半頃、××市◆丁目の交差点で、信号待ちをしていた女性にトラックが突っ込むという事故が発生しました。〕
画面の右端にはLIVEの文字
そこは、痛ましい景色がひろがっていた。
地面にこびりついた真っ赤な血
トラックは向かいの商業ビルに突っ込んで横転していた。
〔…警察は、女性の身元を確認中です〕
ん?
一瞬映った布切れ
…あの色合い
まさか、そんなわけ、
考えるよりも体が動いていた。
「はっ、はっ、はっ、」
事故現場へ向かう。
LINEは既読がつかない、電話は通じない。
「っそんなわけ、」
救急車の音が近くなる。
野次馬だらけの交差点。
スマホでネットニュースを確認する。
〔…女性は、××市在住の◯◯さんだと「…は?」
そんな、わけ、
顔に白い布を被せられ、彼女は横たわっていた。
「っなんで、」
涙が溢れ出す。
ポケットに入れていた指輪を取り出す。
「…俺と、結婚してください…っ」
何年も前から言おうとおもってた。
絶対、明日言おうとおもってた。
でも、もう彼女に明日はやってこない。
返事をしてくれる彼女は、もう、いない。
何も、答えては、くれない。
彼女の手をとって指輪をはめる。
つめたく、ひえきっていた。
数年前の彼女の指にはピッタリであったろう指輪は、今ではおさえていなければ外れてしまう。
「え…」
気づかなかった。
気づけなかった。
〈…失礼します〉
「…」
「…彼女、余命宣告されていたんですよ」
「…」
「もってあと一週間の命でした。」
「…」
っなんで、俺は、知らなかったんだ。
「っ約束、破ってんじゃねーよ…」
…歩み出さなければ。
彼女は“またね”と言った。
いつか、逢える日が来るのなら。
今の俺じゃあ、愛想を尽かされてしまう。
俺の中で彼女の存在は大きくなりすぎた。
いつのまにか隣にいて、いきなり居なくなってしまった。
君はもう見えない。
もう、見えない。
でも、きっと。
どこかで見守ってくれているはず。
「ありがとう」
写真の中の彼女に微笑む。
微笑み返してくれたような気がした。
桜の季節。
見上げれば、白い鳥が朝焼けの空を飛んでいた。
また、いつか。