「あ、そこ、ちょっと惜しいかも」
「え?」
まずは、公式などをおさらいし、それから千波くんに問題を解いてもらう。そこで間違った問題や、分からなかった問題は一緒にやる、という方式でやっている。
「奈央、ここ教えてほしいんだけどさ」
「どこ……?」
「これ」
千波くんが指さした問題は、確かに少し引っかけ問題ではあるが、さほど難しいものでもなかった。
「これは…」
テキストに指さしながら教えていると、千波くんは一生懸命説明を聞いてくれていて、全く気にしていないみたいだったが、私はドキドキが止まらなかった。
だって……。すごく距離が近いから。あともう少しずれたら肩と肩が触れ合いそうで。
説明しながらそんなことを考えては頭の中で振り払う。


気が付けば、お昼前から始めたのに、休憩も忘れて夕方の五時になっていた。
すっかり私も千波くんも勉強に集中していて、時間のことなんて忘れ去っていたから、千波くんのお母さんと妹さんが帰ってきた音で気付いた。