「わたしは後藤さんのこと、罵らない。責めない。やり返さない」
そんなこと誰がするか。
「同じことをされて楽になろうだなんて、そんなことさせない」
楽になんかしてやらない。
これでフェア、だなんて思わせない。
自分だけが罵倒して心身ともに傷つけた事実に苦しめばいいよ。
後藤さんはそういうほうがきっと腹立たしくて嫌いでしょ?
理想や綺麗事が大嫌いでしょ?
わたしの仕返しはこれだよ。
やられっぱなしなんて嫌に決まってるから。
「その気持ちを忘れないで。今までの自分を省みて、苦しんで悩んで」
今のわたしの立場は完全に悪党だ。
自分でもおかしくて笑いそうになる。
こんなことをするなんてって。
後藤さんを俯いて小刻みに肩を震わせている。
きっと怒りで震えている。
そういう人なのは今まで見てきてなんとなく知っているから。
もう十分かな。
そう思って後藤さんの席から離れようとした時。
「もっと言ってやれよ、時田。そんなんじゃ足りねぇよ」
「やられた倍以上返さないと」
「こいつは言われて当然だろ?」
「カッターあるぞ」
わたしたちのことを見ていたクラスメイトが口々に言い始める。
――まただ。
吐き気がする。
そうやって煽るくせに自分の手を汚そうとしない。同じことなのに。
煽るのも周りで見ているだけなのも、同じなのに。
ここにいる人はみんな加害者で共犯者で被害者で、関係者だ。