「おはよう」
「おはよ」
「時田さんおはよう」
今日も挨拶をしながら教室に入る。
もうみんな慣れてか驚くこともなく返してくれる。
いつも通り一人一人挨拶をして自分の席まで行く。
「おはよう、後藤さん」
今日はわたしより早く来ていた後藤さん。
こうして早く来るところもすごいと思うよ。
強いと思うよ。
「おはよう」
もう一度、座って軽く俯いている後藤さんの顔を覗き込んで挨拶をしてみた。
瞬間、机をバンッと両手で思いきり叩いた。
予想もしてなかったことに大きく肩が跳ねる。
「毎日毎日、なんなの?同情でもしてんの?うざい。気が悪い」
机を思いきり叩いたわりにはわたしの顔を見ずに、俯いたままかろうじてわたしに聞こえるボリュームで話す。
やっと反応してくれたらこれ。
やっぱりプライドが高い人だと再認識する。
「同情? するわけないでしょ」
わたしも負けじとあざ笑うかのように返す。
いや、半分は本気だ。
呆れる。
あんなことをされたというのに、本気でわたしが同情するとでも思っているのだろうか。
ありえない。
そんなこと天地がひっくり返ってもありえない。
わたしはそんなに優しくない。
「じゃあなんだって言うんだよ! 罵れよ! 責めろよ! やり返せよ‼」
後藤さんの声が大きくなり教室中にこだまする。
声量は一か百しかないのだろうか。
急な声量爆上げで耳に響く。
だけど、冷静に。
それだけを心で唱え、冷静を保つ。
「しないよ、そんなこと」
「うっざ!何いい奴ぶってんだよ!!」
「むしろ逆だよ」
わたしはいい人なんかじゃないし、いい人になろうとも思っていない。
後藤さんがイライラして苦しんでいる。
味方がいない。
それは彼女を弱くしている。
わかるよ。わたしもその立ち位置を知っているから。
「どう?みんなの気持ちがわかった?」
後藤さんはこうして声を大にして、イライラを今表現できているだけマシだよ。
わたしやわたしの前にターゲットになってきていた人たちはそんなことできなかった。
我慢ばかりしていた。
我慢することしかできなかった。
立ち向かう勇気なんて持ち合わせていなかった。