「ちょっと遠回りしたい」
「了解」


わたしのわがままもすんなり受け入れてくれる。

まだ乗っていたい。まだ話したい。


「わたしね、みんな同じように接することが本当にいいとは思っていないよ」


運転を始めたからか、ユイくんは何も言わない。

ほんとはすぐに話せるのに、話す時と話さない時があるのはきっと彼の気まぐれなんだろう。

そう思うことにした。


「後藤さんのこと、許しているわけじゃない。これからも許すつもりもない。すごく怖かったから」


あれ以来カッターやそれと同じような鋭利なものが少し怖い。

向けられるとドクドクと心臓がおかしくなる。

いまはそこまで深刻に悩んでいるわけではないけど、どうしてもあの時のことを思い出す。

できるなら思い出したくもない。


「それでもわたしは無視しないことにした。みんなと同じように接すると決めた。だけど、ほんとはなんとなく気づいているんだ」


後藤さんの性格。
プライドがエベレストくらい高くて、負けん気が強い。

そんな人だから。


「後藤さんはわたしに話しかけられることが、普通に何事もなかったかのようにされるのが嫌なんじゃないかなって」


きっと嫌なんだろうなってこと。
気づいてるんだ。


「それなら好都合だって思ってる。わたしが決めたみんな平等に同じように接することが、後藤さんにとっては嫌で仕方がない。自分の理想を曲げずに後藤さんに嫌な思いをさせられる。やられっぱなしなんてやっぱりむかつくし」


それが本音だ。

後藤さんも傷つけばいいって思った。

今も思っている。