車の中。助手席は毎日のように座っているせいで、体に馴染んでいる。

この座席に慣れていくと同時にわたしの涙は減っていった。

ボロボロが当たり前だったわたしは過去に置いてきた。


「順調?」
「順調、なのかな?毎日挨拶してるけど、後藤さんとミライちゃんは変わらず反応ない」
「いいんじゃん。まだ始めたばっかなんだし、人間の気持ちは複雑だから」
「そうだね」
「莉緒が頑張ってるのを見ると、俺も元気もらえるよ」


前方の信号が赤になり減速する。

止まったところでいつもと違うバンドの曲がかかった。

心に問いかけてくるような優しくも熱のこもった歌い方に好感をもつ。

体を揺らし曲にのっていると、信号は青に変わり車が動き出す。


「わたしはユイくんから元気もらってるよ」


こうして隣に座っているだけで元気になれるのは事実。

ユイくんはわたしの中ですごく大きな存在だから。


「それなら良かった。ドライブスルー寄るけど何かいる?」
「バニラシェイクのSサイズ欲しい」
「了解」


ファストフード店が見えると、左折してドライブスルーに入る。

その時、歩道を通るから段差を上る振動で「うっ」と変な声が漏れてしまったけど、気にせずユイくんはそのまま進む。

ツッコんでもらえないのって一番恥ずかしい気もするけど、ツッコまれたとしても恥ずかしすぎるからどちらも同じだ。

わたしのバニラシェイクとユイくんはセットを頼む。

渡された袋をわたしの膝の上に乗せて、車はまた進んでいく。

街中にある公園の駐車場に車を停める。

公園に人影があったから、車の中でバーガーを食べる。


「ほら、ポテト」
「ありがとう」


バニラシェイクとポテトを交互に口に入れる。

程よい甘さとしょっぱさで、これは無限に食べることができてしまう。

それほど絶妙なバランスだと思う。
なくなるまで止めることはできない。


「自分でしたいことを決めて、その通りに行動するっていいね」
「そうだな」
「今は誰かに行動を強いられてはいない。監視されているわけでもない。自己満足だけど、それができるってことがすごいことなんだと思ったよ」


今まで自信をもって行動するということをしたことがない。

いつも誰かの陰に隠れて流されるように日々を過ごし行動してきた。

目立ちたいとも思わなかったし不満もなかった。

だから知らなかった。
こんなにも世界の見え方が違うということを。