「おはよう!」


わたしの声に驚いたように目を丸くしながらも「おはよう」と返してくれる。
それに微笑んで、また次の人。

順番に目の前にいるクラスメイトに挨拶ををして自分の席に着く。

カバンを横にかけて座る。

座った後も登校してきた前や横を通る人には挨拶をする。


「美紅ちゃん、悠里ちゃん、おはよう」
「莉緒ちゃんおはよう」
「おはよ」
「なんだかスッキリした顔してるね?」
「二人のおかげだよ」


不思議そうに首を傾げて顔を見合わせる二人。

動きがずれることなくシンクロしていて微笑ましく思う。

幼なじみでずっと一緒にいるから、こんなふうに動作とか似てくるのだろうか。


「二人がいてくれたから」
「よくわかんないけど、難しく考えすぎてるんじゃない?」
「そういう話じゃないでしょ!もう、悠里は素直じゃないんだから」


なんだかんだ美紅ちゃんのほうがしっかりしているというか、察しがいいというか。

それが良いバランスを保っており、落ち着くけど楽しい関係性を作り上げている気がする。


「まぁ気楽にいこうよ」
「気楽だよ!」
「うん、気楽に」


まるで三人の合言葉みたい。

気楽にさ。
気楽にね。

この二人はユイくんといる時と似たような気持ちになる。

心の扉を開けられてしまうような、そんな気持ち。

でも嫌な気は全くしない。

ノックが的確で心を自然に開いてしまう。


「あ、おはよう」


わたしの前を後藤さんが通り挨拶をする。

だけど、当然のように無視して素通りする。

聞こえていないのかわざとなのかはわからない。

後藤さんにはわたしが見えていないのかもしれない。

それでも気にはしないし、返してアピールもしない。

驚いたようにわたしを見る二人をわたしも見る。


「変に意識するのやめることにした」
「と、いうと?」
「みんなと普通にする」
「後藤も?」
「うん」
「大野の親衛隊も?」
「うん。まだ怖いけどね。意識しないことにする」


これ以上不自由になりたくはない。

もっと自由でいたい。

気にしなくていいことを気にして、自分を見失いたくないから。