「今日は満月だって」


シートベルトをしめながらユイくんに伝える。


「曇ってるけどな」


だけど、今日はあいにくの曇り空。

月はわたしたちを、この世界を照らしてはくれない。


「お月見でもしようよ」
「曇ってるけどな」


もう一度同じセリフを口に出し、PからDに切り替え車を動かす。

学校近くのコンビニに入り、ユイくんだけがシートベルトを外す。


「飲み物は?」
「うーん、ミルクティで」
「了解」


わたしの返事を聞いてから、車を降りてコンビニへと行く。

相変わらずわたしは車に残る。

基本的にユイくんは一人で行ってしまう。

ユイくんが一人で買いに行ったほうが早いからだろうけど。

待っている間わたしは返信していなかったメッセージを返していく。

返し終わった時にちょうどユイくんが戻ってくる。

やっぱりすごく早かった。

美紅ちゃん一人の返信をするだけで戻って来たくらいに。


「持ってて」
「うん」


渡されたビニール袋の中には、わたしの頼んだミルクティ。

だいすきなパック型のだった。

ユイくんは毎度変わらずブラックコーヒー。

そしてお団子が車を開けた時についたライトで鮮明に確認できた。

思わず笑ってしまう。

なんだかんだユイくんってわたしに甘いと思う。

お月見イコールお団子という発想もかわいい。


「何笑ってんの」
「なんでもないよ」
「ふぅん。行くぞ」
「うん」


ドライブが始まった時に比べて日が落ちるのが早くなった。

あっという間に真っ暗になってしまう。

この暗さもユイくんが隣にいてくれるだけで怖くない。

車の揺れと一緒に、一定のリズムで進むメロディに歌詞が乗っている心地の良い曲に包まれる。


「タヌキだ」


ユイくんの言葉と同時に減速していく車。

ライトに照らされたタヌキがこちらを見ながらゆっくりと道路を渡っていく。


「さすが動物園だね」
「慣れすぎだろ」


たしかに車が来ているというのにあの堂々とした態度。

これは慣れているに違いない。

キツネが渡り切った後に、止まっていた車を再び発進させる。