「わたしのほうこそ、ごめんなさい。自分のことでいっぱいいっぱいで大野くんの優しさを踏みにじった」
「そんなことない!俺がもっと気をつかってあげられていたら」
「ううん。大野くんが味方になってくれているのはすごく伝わってた」
「だけど、迷惑かけた。それじゃ意味がない。時田が救われなきゃ意味がないのに」


大野くんの悲痛にもとれる声に胸がぎゅっと締め付けられた。

こんなに考えて悩んでくれていたんだ。

申し訳ない気持ちとそれ以上に嬉しい気持ちが湧き上がってくる。


「ありがとう。もう大丈夫だよ」
「それは本当みたいだな。顔見たらわかる」


切なげに笑う大野くん。


「ほんとは俺がそばで支えて時田がしてくれたように、ヒーローみたいに救いたかったんだ。俺のせいで試合に負けてすげぇ落ち込んでた時、誰も俺に近づけなかった。でも時田だけが〝すごくかっこよくて感動した〟って言ってくれた。俺はそれにすごく救われた。手を抜いたわけでも頑張らなかったわけでもない。だからこそ、お世辞でも励ましでもない、純粋なその言葉が響いた。サッと現れてそれだけ言って去る時田は、俺にとってヒーローみたいだった」

「大袈裟だよ」
「俺にとってはそれくらいのこと。だから俺のヒーローの時田が今笑顔になれているならそれでいいや」
「心配してくれてありがとう」


大野くんの言葉はいつでもまっすぐで裏がない。

恥ずかしいくらいまっすぐだ。

だけど、信じられる人の言葉。


「もう時田を苦しめない。迷惑もかけない。だからせめて、友達でいさせてほしい」
「もちろんだよ。迷惑かけるとかそんなことはもう気にしないで。わたしも言葉には気をつける」
「俺は言ってもらえて嬉しかった。何でも言い合えるくらい、時田とは仲良くなりたい。そうなれるように頑張るから」


わたしはこんなことを言ってもらえるような人じゃない。

それでも、大野くんはわたしにそんな言葉をかけてくれる。

恵まれている。
わたしは恵まれているんだ。

それに今まで全く気づかなかった。

だけど今、気づくことができている。


「改めてこれからよろしくね」
「おう!」


今日一番の、いや今まで見た中で一番の大野くんの笑顔が見れた。

わたしも自然に笑顔になれる。

それから大野くんと別れて食堂に行った。

美紅ちゃんと悠里ちゃんはご飯も食べずに待っていてくれて、やっぱり恵まれすぎていると思ったんだ。