クラスの雰囲気は変わらない。
四十人のクラスだけど、常に一人いない。
存在を消しているんだ。
みんなも、本人も。
後藤さんの声をしばらく聞いていない。
何も話さない。
相変わらず無視と陰口、小さな嫌がらせが続いている。
全て、今まで後藤さんがしてきたこと。
それが同じように繰り返されている。
わたしも前と変わらない。
同じように見て見ぬふりをしている。
どちらの気持ちも知っている。
だけど、どうするのがいいのかはいまだに知らない。
ユイくんと話してから、たくさん考えている。
まとまらなくてユイくんに何度も話すけど、結局自分の考えはあれ以上に出てこない。
きっと正解なんてない。
いくら考えても答えなんてでない。
それでも、考えることをやめるわけにはいかないんだ。
何かが引っかかっている限りは止めたらだめだ。
人は思考ができる生き物だから。
「何で休まないんだろうね」
「自分は散々やりたい放題してて、でもなんだかんだみんな休まなかったからじゃん?」
わたしも、わたしの前にターゲットになっていた人たちも休まなかった。
ずっと学校に来ていた。
いじめられる、とわかっていても学校に来た。
きっと、わたしも他の人も意地になっていた。
どこかで負けたくない気持ちがあったのかもしれない。
後藤さんも、きっとそう。
「悔しいんじゃね?ここで休めば威張っていた後藤が実は一番弱かったことの証明になるし」
「負けず嫌いなとこあるもんね」
「莉緒は休もうと思わなかった?」
デリカシーないな。
もう過去のことなのかもしれないけど、わたしにとってはあの時間は地獄で忘れたくても忘れられない苦しい経験だ。
過去だけどまだ過去と簡単に言えるものではない。
それでも他人にとったら誰かのつらい過去もこの程度のものなんだ。
呆れ半分、寂しさ半分、怒り少々の気持ちが込み上げてくるのを飲み込む。
「行きたくなかったけどね」
なんなら今もその気持ちは残っている。
こんな醜く汚れた世界。
複雑に絡み合い救いのない世界。
行きたくない。生きたくない。
「だよね」
よくそんな共感的な言葉を言えるよね。
わたしが苦しんでいたのはあなたのせいとも言えるのに。
言わないけど。
なんだかんだ、あの件以来一緒にいるようになった。
最初は同情の言葉をかけてくれる人が何人かいたけど、最終的に残ったのはこの二人だった。
もう同情ではないと思いたい。
でも、わたしはもうそんな簡単に誰かを信じられる心境でもない。