「自分がターゲットになるのはもちろん嫌だけど、自分以外の誰かがターゲットにされているのを見るのも気分は良くない」


気持ちを知っているからかどうなのか。

黒い霧がかかるみたいに心がモヤッとするんだ。


「今わたしが何もされないのは、後藤さんがいるから、下がいるから、なんておかしな話だよね」
「全員が掲げる目標、目的があれば集団は簡単にまとまる。その中でも一番簡単なのが、誰かを貶めることなんだろうな」
「生贄が必要なんだね」


それってすごく虚しい。


「みんな自分が一番大切だから、自分さえよければそれでいいんだ。自分の下がいると安心できる。誰かを蔑むことでしか自分を保てないなんて悲しいことだよな」


この世界に人が一人ではない限り、比べてしまうのは仕方がないのだろう。

どうしても自分以外の人のことは気になる。

気にしないなんて不可能だ。


「受け入れて肯定して、寄り添っていけたらいいのに」
「もちろんそれが理想だよ。みんながみんな、そういう考え方ができたらいいけど、そうじゃないから」


含みのある言い方に少し考える。

そうじゃないから、仕方ないとそのことを受け入れるわけではない。

そうじゃないから……。


「でも相手はわたしをつるし上げた張本人。ざまあみろとも思う。わたしが向けられてきた以上に好奇の目に晒されて蔑まれて、もっと苦しめばいい」


自業自得だよ。

自分がやったことはめぐりめぐって、自分に返ってくるんだよ。

そうでないと報われないから。

誰かが苦しみ続けて終わるなんて、あまりにも残酷すぎるから。

返ってきて体験してそれで、今まで自分がしてきたことへの大きさに気づけばいい。

どれだけのことをしたのか。

苦しめられた人たちの気持ちを身をもって感じたらいいんだ。

きっと人の痛みなんてわからないから、心ないひどいことができるんだよ。