「莉緒ちゃんって彼氏いるの?」
「え?」
「どうなの? 気になる」
「いないけど」
「えー!じゃあ車で送ってくれた男の人は?」
「お兄ちゃんの友達」
「そうなんだ。年上彼氏いいなって思ってたのに」
「あんた彼氏いるでしょ」
「でもキュンがないんだよね」
「もう振られろ」
最近の女子高生ってこんな感じなの?
全く知らない世界の話で頭がパンクしそうだ。
「ちょっと莉緒が引いてるよ」
「きゃあ莉緒ちゃん、引かないで。でもピュアだね」
「ピュアホワイトだ」
「プリキュアみたい」
わたしを置いてどんどんトークが進んでいく。
勢いがすごい。
まるで都会の駅だ。
どんどん電車が来るように、どんどん会話が入れ替わり進んでいく。
わたしを乗せずに走る会話の電車。
それをホームで見送っているみたい。
見送り続けること数分、急に騒がしかった教室が静まり返った。
今日一番のドキドキ。
これは完全に不整脈だ。
ゆっくりと視線を教室前方のドアに向ける。
そこには後藤さんがいる。
みんなからの視線を一斉に浴びてそこに立っていた。
「……はよ」
静まり返った教室にはそこまで大きくない声だったけど端まで届いた。
その声に反応する人はいない。
気にしていないのか、気にしていない振りなのか、後藤さんは自分の席の机にカバンをドカッと音を立てて置き乱暴に椅子に座った。
それを見てコソコソと耳打ちを始めるクラスメイト数名。
近くの席の人は後藤さんが来るなり立ち上がって教室を出て行く。
昨日までは確かに一番強かった。
そのはずが一日でここまで落ちてしまう。
人間は極端だ。
「態度でか」
「よくあんな威張ってられるよね」
近くで聞こえる声。
今まではなかった光景。
後藤さんが冷たい視線で見られている。