普段とは違う不安と緊張を抱えて学校に行った。
歩くたびに大きく脈打ち、そしてどんどん速くなっていく。
それを抑えるように深呼吸を繰り返す。
教室の前に着いて、もう一度、生活発表会の出番直前の時にするくらい大きくゆっくり深呼吸をした。
よし。
と心の中で気合いを入れてからドアに手をかけ、平静を装いながら勢いよく開けた。
「莉緒ちゃんおはよ!」
「おはよう!」
「来てくれてよかった」
足を一歩踏み入れるなり数人のクラスメイトが近寄ってきて声をかけられる。
こんなことは高校生活始まってから初めてのことだった。
驚きと戸惑いで足を止めて、わたしに寄ってくる女子数名の顔を順番に見る。
ニコニコと嘘偽りのない笑顔をわたしへと向けた。
「お、おはよう……」
この状況に頭は追いついていないけど、挨拶を返さないわけにはいかないからと、なんとか言葉にする。
わたしの挨拶を聞いても表情を変えない。
少し、いや、すごく怖いと思ってしまう自分がいる。
「莉緒ちゃん数学の課題できた?」
「いちおうは……」
「ほんとに?すごく難しかったのに早いね」
「見せてもらうのはナシ。自分でやりなよ」
「えー?まだ何も言ってないのに」
「どうせ言うでしょ。莉緒も見せたらだめだからね」
「あ、うん」
たぶんだけど、初めて話す人。
わたしはミライちゃんとばかりいて他の人とはあまりしゃべったことがなかったから。
いきなり近い距離感に戸惑わないわけがない。
昨日までわたしの存在はないものとして扱われていたのだから。
自分の席に行こうと歩くもついて来られる。
どうして?
そう思っても聞けるわけがなく、視線を向ければニコッと微笑まれるだけ。
席に着いてカバンを横にかけ準備しているとわたしの前の席に座り振り返った。