――助けたいって思っていただけでも気持ちは救われてる?


何を言ってるんだ。

救われてなんかいない。

そんなので救われるわけがない。

わたしの気持ちを勝手に決めるな。

それだけで救われるわけない。

事実、わたしは救われていない。

嘘くさい涙。
安い言葉。

何も心に響かない。


なんて空しい世界なんだろう。
なんて歪んだ世界なんだろう。

本当に、吐き気がする。

突然の後藤さんを非難する空気。

調子よくわたしを責めていたのに突然立場が逆転し、自分が非難される側になったことへの困惑と恐怖で固まって何もできない後藤さん。


吐き気がする。こんな世界。


胸にモヤモヤを抱えながら、自分のカバンからタオルを取り出して戸田さんの手にいまだ収まっているカッターを取り、代わりにハンカチを握らせる。


「汚れるけど?」
「いいよ。助けてくれてありがとう」


強く縛って止血をする。

そこまで深くはなさそうで安心した。

この中で体を張って、本当に助けてくれたのは戸田さんだけだった。

どうして助けてくれたのかはわからないけど。


「席つけー。授業を始め……なんだこれ⁉」


定刻に授業を行うため教室に入ってきた先生がクラスの状況を見てぎょっとした。

当然の反応だった。

もちろん授業どころではなく担任や主任、教頭や校長まで教室にやって来た。

戸田さんは怪我をしているから保健室へ。

さっきまで調子がよかった後藤さんはみんなの視線や言葉のせいか、様子がおかしくなっている。

泣き崩れる子が数名、それを支え言葉をかける子が数名、面白がっている子が数名、興味なさげな子が数名。

わたしはただこの結末を見守った。


きっと、終わりだ。
これで、終わりだ。

だけど、終わらないんだ。

今回の件はこれで終わりだけど、これはどこにでも生まれる終わりのない世界。

正解のない問い。


このままではきっと、終わらない。

いつだってまた、始まってしまうんだ。