「……やれなんて一言も言ってない」


誰かが反論をした。

ボソッと。でも、はっきりと。


「勝手に自分で始めたよな」
「うちら何も言ってない。むしろひどいなって思ってたくらいだし」
「あたしもやりすぎだって思ってた」
「だよね。時田さんが可哀想だった」


誰かが言い出したことにより、ぽつぽつと後藤さんへの非難の言葉が降ってきてやがて雨のようになる。

今まで思っていたとしても口に出す人はいなかった。

本当に思っていたのかどうかすらわからない。

自分がターゲットにならないように黙認していた。

結果、後藤さんの今までの行いは正当化されていた。

それが、今回の行き過ぎた行為で後藤さんは敵となった。

戸田さんが否定したからだ。

カッターで人を傷つけたらいけないことくらい小学生でもわかる。

だからみんな、戸田さん側についた。


「何も言わなかったくせに! ずっと見てるだけで何もしなかったくせに! 知らんふり決め込んでたくせに‼」
「ずっと最低だって思ってたよ」
「誰も後藤の味方なんかしたことない」
「……うっ……こんなの良くないから……莉緒ちゃんを助けたいって思ってて……でも怖くて、何もできなかった……ごめんね」
「そうだよね。何もできなくてつらかったよね」
「助けたいって思っていただけでも時田の気持ちは救われてるよ」


……思わず吐き気がした。

自分の立場が危うくなればすぐに寝返る。

手のひら返しが早すぎる。

わたしは悪くない。
後藤さんとは関わっていない。
味方なんかしていない。
本当はずっと良くないって思っていた。

そうやって自分を守るんだ。

おかしくて笑ってしまいそうになる。

助けたいって思ってたなんて嘘。

自分がいじめられないように、ターゲットにならないように。
そればっかり考えていたくせに。

わたしの気持ちなんて何ひとつ考えたことないくせに。