「後藤さんのためにもカッターはしまって」
今までの行為ならまだしも、一線を越えてしまえば救いようはない。
事件を起こす高校生もいる。
未成年だから法的には守られるけど、実際はどうなんだろうか。
きっとただの高校生には戻れない。
世間はそうは見てくれないだろう。
変わり者ははじかれる世界だ。
じゃあ、後藤さんは?
わたしをカッターで傷つけたらどうなるんだろう?
何か変わるのかな。
わたしはこのことで一生のトラウマができて、消えない傷ができるかもしれない。
カッターで人は死んだりするのかな。
深く刺さったりはしないよね。
試したことはないし聞いたこともないから。
どうなるかなんてわからないな。
怖いけど、何かを失う可能性もあるかもしれないけど。
それでも、立ち向かったことだけはわたしの力になればいいな。
「調子に乗ってんじゃねぇよ‼」
刃がキラリとわたしの勇気を嘲笑うかのように再び太陽の光に反射した。
目の前の光景が全てスローモーションになる。
怒りで顔を赤く染めて歪んでいく後藤さんの顔。
クラスメイトの悲鳴。
その声に交じり「莉緒!」とわたしを呼ぶミライちゃんの声が聞こえた気がしたのは、すでにわたしが走馬灯でも見ていていつかの記憶なのかな。
ゆっくりとわたしに向かって近づくカッターの刃先。
普段使う時は恐怖なんて感じない。
切っちゃったら痛いなって感じる程度。
それに死の恐怖を感じさせられる日が来るなんて不思議だ。
どこ、刺されるのかな?
後藤さんに立ち向かわなければ髪の毛が短くなっただけで済んだかもしれない。
だけど後悔はない。
恐怖で体が固まり動かない。
せめて腕とか、まだ痛みに強そうなところがいいな。
思考だけは早く巡り、後藤さんとの距離はもうない。
反射で目を閉じた。