こんな時、ユイくんがいてくれたらどれだけ心強いか。

でも、ユイくんはもうわたしの心の中にいる。

たくさん言葉をもらった。
支えてもらった。

ここで前を向かないわけにはいかない。

逃げるわけにはいかないんだ。

息を吐き出して気持ちを整える。

誰も否定しないのならわたしが全力で否定する。

嫌なことは嫌だと、わたしが言わなくてはいけない。

わたしはわたしの正義を貫く。

怖くて目の前の現実から逸らした視線をゆっくりと上げた。


「なんだよ」


意を決して後藤さんを見ると、強すぎる眼力で睨み返された。

一瞬怯んでしまいそうになるけど、ここで引いてしまえば今までと変わらない。

わたしはこれからも逃げてしまう人になる。


「……や、やめて」
「あ?」
「カッター、危ないから早く戻して」
「調子乗ってんの? お前に指図される筋合いないんだけど」


これまでの人生で一番と言っていいほど振り絞った勇気。

それを簡単に跳ね返される。

怖いけど、ここで負けない。

これからの未来のためにもわたしは折れない。


「一生あの男に会えないようにしてやろうか?」


後藤さんは悪魔が乗り移ったかのような迫力で言葉を強める。

手足が震えて一歩も動けない。

それでも目を逸らさずに前を向き続けた。

弱気になるな。


『莉緒なら大丈夫だ』


そう、わたしなら大丈夫なんだ。