まだ少し暑くてじめっとした空気がまとわりつく。
本当は降りたくなんてない。
もっとユイくんとドライブしたい。
ユイくんと一緒にいたい。
だけど、それじゃだめだから。
「行ってきます」
笑顔でユイくんに手を振る。
行きたくないのはほんと。
でも、笑顔もほんとなんだ。
ユイくんからたくさんのパワーをもらったから、自然に笑顔が出るんだ。
「行ってらっしゃい」
ユイくんも優しく微笑み返してくれた。
こんなに心強いと思うことはない。
一歩一歩踏みしめるようにして教室へ足を向けた。
ざわついた教室に入ると突然静かになる。
そしてわたしを目線だけで追う。
なんて居心地の悪い。
いつもはあまり感じなかった男子からの視線を強く感じるのは、昨日の大野くんとの一件からだろう。
サッカー部は部員同士でとても仲良しみたいでよく一緒にいるから。
鋭い視線が増えたことで全身に力が入るけど、気にしていないふりをしてカバンを横にかけ席につく。
「もう来ないかと思った。てか普通は来れないよね」
わざわざわたしの席まで来て挨拶代わりの嫌味を吐かれた。
他のクラスメイトはわたしが存在していないかのように扱うくせに、監視するような視線だけは向けてくる。
毎日こんな生活を送っているけど、慣れることはない。
「そういえば優しい人が教えてくれたんだけどさ」
ニヤッと気味悪く笑った後藤さんが視界の隅に映る。
耳元に口を寄せてくるその行動だけで気持ち悪くて鳥肌が立った。