「今日は学校休んだ? 待ってたんだけど。電話もした」
あの時の着信はユイくんだったんだ。
どれくらい待ってたのかな?
スマホを見ていないから何時に電話してきたのかもわからない。
「……ごめんなさい」
「別に謝罪の言葉が聞きたいわけじゃない。理由が聞きたい」
「……行ったけど、途中で帰った」
「そっか」
夜よりも深く落ち着く優しすぎる声に再び泣きそうになった。
この荒んだ世界で唯一の味方のユイくんは、昨日の今日でも変わらない優しさで接してくれるから涙があふれても仕方ない。
「こんなに泣くほど、つらかったんだよな」
わたしの頬に触れて、顔の向きを変えられる。
淡いナビの光しか照らすものはなく、ユイくんの顔ははっきりとは見えない。
いつも見たいと思っているのに、今もユイくんの表情をしっかり見ることは叶わない。
だけど、触れる手が温かくて優しくて、それだけで安心できる。
「莉緒が莉緒でいられなくなるくらい無理してほしくない。そうなるくらいなら学校も途中で帰ればいい」
ユイくんは世間体とか、常識とか、そういうのではなくわたしの気持ちを一番に大切にしてくれる。
その上でわたしに言葉をくれる。
だからユイくんの言葉は誰の言葉よりも心に響いて染み渡るんだ。
誰かを思っての言葉は、不思議と伝わるものだから。
「俺は莉緒が学校に行くことよりも何より、莉緒と一緒にドライブできるほうが嬉しい」
そんなのわたしのほうが思ってる。
この時間が何よりも幸せで嬉しい。
すごく大切な時間なんだ。
「もっと俺を頼ってほしい。そんなに思いつめる前に、俺に全部話してほしい。もっと甘えていいんだよ。てか甘えろ?」
優しすぎる言葉と声に、涙はすでにあふれていたのにダムが決壊したかのようにもっとあふれた。
大粒の涙をずっと触れていた優しい手ですくいとってくれる。
たくさん泣いていたはずなのに、いくらでもあふれてしまう。
苦しくてあふれる涙より、優しくされた時のほうが涙は止まらないみたい。
「ため込んで壊れるよりも、大声でたくさん泣いてくれたほうがずっといい」
声を出して泣くわたしをユイくんはそっと抱き寄せてくれた。
力強い腕は男の人って感じだけど、すごく落ち着く。
お兄ちゃんでもお父さんでも大野くんでもない。
ユイくんの腕。
ユイくんだから、落ち着く。