ユイくんとお母さんが話していたみたいだけど、わたしが出てくるとすぐにユイくんはお母さんに会釈をしてわたしの前に来てくれた。
「行くか」
その言葉に頷いてお母さんのほうを向くと、笑顔で手を振っていた。
お母さんはこのドライブに対して特に何も言わない。
お兄ちゃんの友達で昔から知っているし、その時からユイくんを気に入っていたこともあるから、信用しているんだと思う。
ユイくんについて行き外に出る。
むわっと湿った生ぬるい空気に包まれた。
「はい、乗って」
助手席のドアを開けて促してくれるユイくん。
だけど、家を出てから足は動かない。
さっきは突然ユイくんが現れたから驚きすぎて動揺していたけど、夜風に当たりやっと状況に追いついた。
「……わたし、行けないよ」
今日、学校をさぼった。
仮病すら使わなかった。
何も言わずに学校を出た。
そんなわたしに、ユイくんにドライブに連れて行ってもらう資格はない。
親身になってわたしを支えようとしてくれていたユイくんを裏切った。
さっきまで暗い世界にいて、もういっそこのまま落ちてしまいたいと思った。
また、ユイくんを傷つけるような、悲しませてしまうようなことを考えていたんだ。
「難しいことは考えずに、とにかく乗って。話はこの中で聞く」
俯き黙り込んだわたしの目の前まで来てくれたユイくんは、お嬢様をエスコートするかのようにわたしの手をとり車まで歩く。
内心、ユイくんとドライブしたいって思っていたから、抵抗せずに車に乗り込んだ。
ここまでしてもらわないと今のわたしは素直になれない。
自分でもずるいと思うけど、きっとユイくんはわかってくれているから少し強引なんだ。
わたしが乗ったのを確認するとドアを閉めてくれて、運転席に回りユイくんも乗り込んだ。
シートベルトを締めたカチッという音が二回響けば車が動き出す。
走り出してもお互いに無言で、エンジン音と車が道路を滑る音だけが響く。
信号で止まった時、不意に外を歩く人の笑い声が聞こえてきた。
このタイミングでユイくんが曲をかける。
今回はユイくんの好きなスリーピースバンドではなく、初めて聴く曲だった。
ギターのおしゃれなメロディーラインから始まり、甘めのハミングが響くからなんだか気持ちは落ち着く。
信号が青になると再び動き出し、昔よく遊んでいた少し大きめの公園に着くと駐車場に車を停める。