ふと、静かな空間にスマホの着信音が鳴り響いた。

動くことはできず、相手も確認せず放置した。

何度も長いコールが聞こえたあとの静寂。

何も考えたくなくて、ただ真っ暗な世界に居続けた。

それからどれくらいこうしていたのかわからない。


「莉緒」


ノックと扉を開く音とわたしを呼ぶ声がテンポよく耳に届き、驚いて体が大きくビクッと跳ねた。

ゆっくりとベッドから体を起こす。

聞き慣れた声。

でも、ここにいるはずがない。
ないはずなのに、しっかりと聞こえた声。

聞き間違えるなんてありえない。

だからこそ状況が理解できない。

ゆっくりと顔を横に向けドアに視線を向けた。


「……ユイくん……何でここに……」
「おばさんがいれてくれたよ」


お母さん! と心の中で思いきり叫ぶ。

真っ暗な部屋、廊下からの明かりに照らされシルエットは見えるけど、表情まではわからない。


「こんな真っ暗にして。だから気分も下がるんだよ。ほら、行くぞ」


ユイくんはわたしの部屋にズカズカと入ってきてベッドの横まで来ると、わたしの手を引っ張った。

戸惑いながらもされるがまま引っ張られてベッドから降りる。


「行くってどこに……」
「決まってんだろ。ドライブだよ」
「でも、わたし……」
「その話もあとで聞くからとりあえず行くぞ」


ユイくんに言われてハッした。

ずっとベッドにいて枕に顔を押し付けていた。

きっとひどい顔に違いない。

頭もボサボサ、おまけに部屋着だ。


「待って。顔洗いたい!」
「そんなのしなくていいけど」
「すぐ行くから」


洗面所に行き顔を水でサッと洗ってから手ぐしで髪を整える。

ユイくんが家まで、しかもわたしの部屋に来るなんてびっくりした。

お母さんも何で通すの?

声かけてほしかったよ。

心の中で文句を言いながらも、顔を洗ってスッキリした状態で洗面所を出る。