「俺のせいで好きな人が傷つくなんて一番サイテーだよな。迷惑って言われても仕方ないわ。全部俺が悪かった、ごめん」
「違う、今のは完全に八つ当たり。わたしのほうが悪い。ごめんなさい」
「いや、いいんだ。その通りだと思う。苦しんでいるのに気づけなくてごめん」


ただの八つ当たりなのに、真剣に受け止めようとしてくれる。
こんなに優しい人、この学校にはいない。

それなのに、わたしはひどいことを言った。

取り返しのつかないことをしてしまった。

深く頭を下げる大野くんに罪悪感でいっぱいになる。

確かに空気読んでって思っていた。

大野くんの存在で敵を増やしたことも少なからずある。

それでも、この地獄のような学校世界で唯一わたしの味方をしてくれていた大野くんに対してひどい仕打ちをした。

大野くんだけは周りに流されることなく、わたしを見てくれていたのに。


「大野くんは悪くない。わたしが悪い。大野くんは関係ない。全部わたしが、悪いのはわたしで……全部わたしが悪いんだ」


こんなことになったのはわたしのせいだ。

何が大野くんのせいだ。

人のせいにして少しでも気持ちを楽にしようとするなんて、一番最低なのはわたしじゃないか。


「時田は悪くないから。……俺、ちょっと頭冷やしてくる。今まで悪かった」


最後は顔を合わせてはくれなかった。

どんな表情をしていたのかわからなかったけど、あの悲しい顔のままだと思う。

いつもまっすぐにわたしを見つめてきた彼が顔を背けたのは初めてのこと。

わたしはそれくらいのことをした。

大野くんがわたしの横を通り過ぎて姿が見えなくなった瞬間、体に大きな衝撃がきたかと思えば目の前に灰色。

それが廊下だということに気づくまで数秒かかった。

ゆっくりと顔を上げれば仁王立ちの女子数人。

般若のごとく怖い顔をしていて、体が固まり立つことができない。

すぐにお腹に鈍い痛みが走りゴホゴホとむせるけど、収まる前に二度目の痛みがやってくる。