「……どうかした?」
「時田がここにいるのが見えたから外周抜け出して来ちゃった」
「大丈夫なの?」
「おう!俺、抜け出すのとか得意だから」


呼吸を整えた大野くんは、太陽にも負けないくらいの眩しい笑顔を向けてきた。

その眩しさに目を細める。

そんなわたしに気づくことなく、大きく一歩踏み出して距離をつめた大野くん。


「掃除中?手伝おうか?」
「部活中でしょ。サボり禁止」
「サボり目的じゃないし」


――やばい。

そう思った。
こういう時の直感は高確率で当たることを十七年間生きてきたわたしはすでに知っている。


「早く戻りなよ。部活がんばっ……」
「時田と話したいから、ここに来たんだよ」


あぁ……最悪だ……。

頬が赤く染まっているのは、走ったからであってほしい。
九月も下旬に入るけど、残暑のせいでもいい。

彼が視線を逸らしたことに、意味なんてないほうがいい。

さっきのセリフは、わたしをからかっているんだと思いたい。

そうでないと困るんだ。


「あ、ははっ。それをサボりって言う……」


笑い飛ばして冗談に変えようとしたけど、大野くんの熱っぽい瞳がそれを許してはくれなかった。

まっすぐに色素の薄い茶色の瞳にとらえられて言葉に詰まってしまう。

大野くんに見つめられるのは苦手だ。

時間が止まったように体が動かなくなり、呼吸の仕方さえ忘れて不整脈になる。