どうにか早く大野くんから離れたいと思っているのに、突然手をとりぎゅっと握られてしまった。

ここがどこかわかっているのかな?
廊下だよ?

この場面を見られたらどうなるかってことすら大野くんにはわからないらしい。

さり気なく手を抜き取ろうとするけど、男子高校生の力に敵うわけもなかった。


「本当に大丈夫? そうは見えないけど……」


悪気があるわけではない。
わかっている。

そんなことはわかっているけど、だからこそどうなんだ。

悪意ない言葉のほうが時に人を深く傷つける。

そしておかしくする。

わたしの中で何かが崩れていく音がした。


「……もう、ほっといて」
「え?」
「わたしにかまわないで」


驚いた表情をする大野くんの手を大きく振りかぶって思い切り振り払った。

限界だった。

元はといえば大野くんのせいだ。

わたしがミライちゃんと仲が悪くなったのも、クラスメイトに白い目で見られて嫌がらせされるようになったのも、後藤さんのターゲットになったのも。

全部大野くんのせいだ。

大野くんがあんなことをしなければ。
わたしのことを好きなんて言わなければ。

そうすれば、わたしは今も目立たない地味な女の子として、何事もなく平凡に日々を生きていたはずなのに。

日を追うごとに鋭さを増す視線。

それは大野くんがわたしを気にかけて話しかけてくるからだ。


みんなで無視しよう。


なんて、ターゲットになった人への暗黙の了解である。

わたしだって今までそうしてきた。

関わりたくないから目を逸らした。

そうすることで自分を守った。