頭に浮かんだのはユイくんの運転する綺麗な横顔。

昨日の怒りと悲しみが複雑に入り混じった叫び。

ユイくんを傷つけたくない。

でも、怖いよ。みんなの視線が。
コソコソ話が。向けられる敵意が。

全部全部、怖くてたまらない。

わたしはやっぱり……。


「あ、ごめんね」


前から歩いてきた人と肩がぶつかってよろける。

謝ってくれたけど、それすらわざとかと一番に疑ってしまうほど、わたしはこの世界に気を許していない。

声が聞こえる。
わたしを責める声、非難する声が。

耳を塞いでも聞こえてくる。


もう、何もかもが嫌だ。

終わらせたい。
楽になりたい。


――逃げ出したい。



「時田!」


……あぁ、これは悪夢だ。

この声はわたしを地獄へと呼ぶ声だ。


「時田、大丈夫?」


無視をしたのに肩を掴まれて強制的に止められてしまう。

最悪だ。
止められても振り向かずにいたのに、ご丁寧にわたしの前に回り込んで顔を覗き込んできた。

大野くんの本当に心配してくれているような瞳とぶつかる。

わたしはこの瞳に弱いのかもしれない。

大野くんに対してムカムカしているけど、無理やり振り払って視線から逃れることができない。


「うん」


無視はできず相槌だけ打った。

わたしの相槌を真に受けて大野くんの表情に安堵の色が混じる。

……大丈夫なわけがない。

わたしの状況を本気で心配しているなら『大丈夫?』なんて質問すらおかしい。

大野くんにはこんな人生が無縁だから、想像してもわからないんだろうな。

みんなに愛されている大野くんには、わたしのように敵意を向けられたことがないから。

大野くんはわからない。
きっとこれからも大野くんにはわからない。

生まれながらに周りから愛される素質をもっている人。

わたしとは正反対の人。