再び視線を窓の外へと戻す。
動き出す車の中は、甘い歌声に包まれた。
ユイくんが高校生のときから好きなスリーピースバンドだ。
耳に心地よい歌声を聴きながら、心地よい車の揺れ。
真っ暗な道の先は街灯とヘッドライトだけが照らす。
すごく穏やかな気持ちになる。
こんな夜は初めて。
田舎だから山や田んぼばかりで元々が変わり映えしないのに、夜だから余計に変わらない景色。
だけど、だから、落ち着く。
闇に紛れて、闇の中を走って。
どこへでも行けそうな気がした。
「着いたぞ」
帰りは一言も話さなかった。
家の前に着くと、そこでやっとユイくんが口を開いた。
「うん」
頷いてからシートベルトを外す。
もう夜は深い。
心細く感じるのはユイくんとまだ一緒にいたいからではなく、きっとこの深い夜のせいなんだ。
この闇はわたしをおかしくさせる。
「またな」
「……明日は?」
ドアに手をかけ少し開けてから、振り返り思い切って尋ねる。
「莉緒が望むなら」
ドアを開けたことで点いたルームライトで、ユイくんの表情が久しぶりに見えた。
やわらかい笑顔で、心細さはどこかにいきユイくんのあったかさで満たされる。
夜のせいじゃない。
わたしがユイくんに会いたいんだとそこで思い知らされた。
「やった」
心から笑顔になれる。
ユイくんに会える、それだけでうれしい。