「莉緒はさ、こんな救いのない世界で何を見る?」
「え……?」


ユイくんがこちらを向く。

街灯が淡く照らす影は逆光で表情までは見えない。


救いのない世界。
この世界に救いはない。


そんな世界でわたしは…………。


考えるけど何も見えない。
だって真っ暗だから。

確かにわたしは思い出した。

だけど、まだ何も見ることはできない。

考えても答えは出なくて無言になる。

再び波の音だけがこの闇を支配した。


「……さ、帰ろうか」


結局、ユイくんの質問に対する答えは何も浮かばなかった。

立ち上がり、手を上に伸びをしているシルエット。

わたしも同じようにゆっくりと立ち上がってから伸びをする。

潮の湿っぽさや香りが肌に貼りついていて、ここに長くいたことを実感させた。

ビニール袋をごみ箱に入れてから、車に乗り込んでシートベルトをする。

夜の海はなんだか怖い。

でも、不思議と落ち着く。

怖いのに落ち着くって矛盾しているけど、こんな大きな海でさえ夜になると闇に紛れてしまうことが心地良かった。

わたしの真っ黒な気分も悩みも隠せてしまいそうだから。

真っ暗で何も見えない海を窓越しに見つめる。

波の音に集中していると、ドラムの軽快なリズムが車内に流れ始める。

隣を見ると、ユイくんの手がハンドルの上で動いていた。

そこにリモコンみたいなのがついていることは、乗せてもらってすぐに目に入ったから知っている。

音楽の再生、スキップ、音量とか調節できるみたいだ。