「さっきの話だけどさ、」


ビニール袋からユイくんの分を出して手渡そうとした時だったから、思わず落としそうになった。

落とす前にコーヒーを受け取ると、さっそく一口飲んだユイくん。

やっぱりわたしの知っているユイくんではない。

わたしの知っているユイくんはこんな優雅にブラックコーヒーを飲まない。

ファミレスのドリンクバーでメロンソーダばかり飲んでいるユイくんしか知らない。

じっと見つめていると、カップから口を離してその口を開いた。


「まずは、話してくれてありがとう」
「え……?」


想像もしていなかったセリフに素直に驚き目を見開く。


「誰かに話すって、勇気いるよな。莉緒は一人で耐えてきたんだな。よくがんばったよ」


だめだ。
鼻の奥がツーンとするといっきに温かいものが込み上げて、堪えることなんてできずすぐにあふれて頬を伝う。


「俺は莉緒が話してくれてうれしかった」
「うっ……ふ……」
「でもさ、こんなになるまで、溜めんなよな」


ユイくんの言葉がすごく温かくて、優しさにあふれていて、わたしの心にじんわりと光を灯してくれる。

真っ暗な心にやわらかな明かりがついた。


「我慢は悪いことじゃない。たしかに、誰かが我慢してるから自分や周りが楽しく思えることもあるんだろうな」


コーヒーをまた一口飲んで、わたしの言葉に同意する。


「でも、それはみんながするべきだ。莉緒一人で背負うものじゃない」
「っ、」
「我慢して苦しんでいる人がいることに気づけない奴のためにすることなんて何もない」


いいのかな?

こんな状況になったのは自業自得な部分も大きい。

わたしはそれくらいのことをしてしまったのだとも思ってる。

けど、抜け出したいって思ってもいいのかな。
幸せを求めてもいいのかな。


「莉緒が幸せになれないのに、我慢なんてする必要はないんだよ。我慢する人が不幸になる世界はいらない」


我慢することでしか、自分を保つことができなかった。

気づかないふりすることでしか、歩くことができなかった。

どうでもいいと思わないと、生きていくことができなかった。