「全部ね、我慢しとけばとりあえずはなんとかなる。誰かの犠牲がないと、誰も幸せになれない世界だから」


ぐねぐねな細い山道を通ったかと思えば、今度は神社が見えた。

ここも細く民家に挟まれた道だ。

けっこう話したな。

話し出したら止まらなくなってしまい、細かく説明してしまった。

ユイくんは本当にしゃべらずに運転していて相槌すらなかったから、聞いているのかどうかはわからない。


「ねぇ、ユイく……」


さすがに一人でしゃべり続けた。

呆れたのかと思って、隣のユイくんに声をかけようとしたら、急にまぶしいオレンジ色が視界いっぱいに広がり言葉が止まる。


……ユラユラ動くオレンジ、耳に心地よい寄せては返す波の音。


――――海だ。


目の前の光景に目を奪われ見つめていると、車がゆっくりと停止する。

駐車場に停めたみたいだ。


「はい、着いた。続きは潮風にあたりながらでも」
「あ、うん」


頷いてからシートベルトを外し、ずっと抱えていたビニール袋を持って降りる。

ユイくんはすでに降りていて、わたしが降りたのを確認するとそのまま歩き出した。

前よりもぐっと伸びた身長。
細身の体はほどよく筋肉がついていて、服の上からでもスタイルが良いことがわかる。

ポケットに手を入れて歩くユイくんは、わたしの知っているユイくんからけっこう変わっている。

見た目も雰囲気も、以前と違う。

あれだけ話したのに、反応がないのは本当に話を聞いていなかったのかな。

それとも、再会してすぐなのに現在進行形で苦しんでいる重たい話をされて面倒くさくなったのかも。

そんな不安は、海がよく見えるベンチに座った瞬間に消える。