「ありがとう」
大野くんの行動はわたしにとって、決していいものではない。
けど、気持ちは嬉しいものだから頑張って口角を上げてお礼を言う。
大野くんは照れた様子でほんのり赤くなった頬を人差し指でかきながら視線を逸らした。
「……好きな人には笑顔でいてもらいたいからさ……じゃ、じゃあな! 何かあればいつでも相談してな‼」
……言い逃げ。
大きく手を振るとすぐに教室を出て行ってしまった。
残されたわたしには罰が下る。
だって“大野くんはみんなのもの”だから。
――――ガタッ
「媚び売ってんなよ」
「ビッチが」
「身の程わきまえろ」
「目ざわりなんだけど」
机を蹴り倒され、驚く間もなく暴言が降ってくる。
何でこんなこと言われなきゃいけないんだろう。どうしてわたしの周りには敵しかいないのだろう。
学校はつらい。
けど家族に心配をかけたくないから、家では何事もなかったようにいつも通りを演じる。
きっと大丈夫だ。
何も聞いてこない。
わたしはまだ大丈夫なんだ。
気にしなければいい。
この状況を早く良くするためには、気にしないこと。我慢すること。
ただそれだけでいい。
そうすればいつか飽きてくれるから。
気にしない、気にしない。
我慢、我慢……。
そうしてわたしはなんとか、この二週間を耐えてきた。
これからも耐えなくてはいけない。
水をかけられることも、悪口を言われることも、どうってことない。
そうでなければ、わたしはこの世界で生きていくことはできないから。
◇