それに、この場で制止する言葉をかけるなんて、火に油を注ぐようなものだと思う。
「は?」
「じっくり楽しみなよ。楽しみは長いほうがいいでしょ」
「んー……まぁそれもそうか」
一瞬空気がピリついたけど、戸田さんの言葉に後藤さんは納得したようだった。
けど、止めているようで止めていない。
助け船なんかじゃない。
やっぱり戸田さんのほうが恐ろしい人なのかもしれない。
わたしはいつまで、後藤さんに苦痛を与えられるのだろうか。
先のことをいくら考えても、待っているのは地獄だけ。
「楽しませろよ」
吐き捨てるように言うと、わたしに背を向け自分の席へ移動した。
少しだけ安堵するも、わたしに注がれる視線は鋭いまま。
心が完全に落ち着く時はこない。
「……待ってて」
「っ、」
「これからが楽しみだね?」
顔を覗き込んで突然視界に入ってきたから、驚きと恐怖で肩がビクッと跳ね上がった。
そんなわたしに戸田さんは心底楽しそうに笑った。
例えるなら、ブロックを買ってもらった子どもがこれで何を作るかわくわくしながら考えているような。
そんな笑顔。
固まるわたしをよそに、戸田さんの顔は遠くなる。
それと同時に担任の先生が入ってきて、少し話をしたあとに体育館で始業式を行い二学期はスタートした。
わたしの地獄の生活と一緒に。