おかしいと疑問をもちつつも、それを口に出して言うことはなかった。

助けたいと思いつつ、行動に移す勇気なんてなかった。

誰か助けてあげてよって他力本願でいる。

きれいごとを心の中で繰り広げて満足していた。

無視する人やいじめるような人とわたしは違うんだと思い込もうとしていた。

でも本当は違うんだ。

いつか自分がこうしてターゲットになることがわかっていたから。

その時に誰も助けてくれないことくらいわかっていたから。

わたしは少しでも自分の番が遅れてくるように、見て見ぬふりを続けてきたんだ。

心の中で思うだけで、実際は本気で助けたいなんて思っていなかったのかもしれない。

少なくとも一学期間、ターゲットがわたしにならなくて安心していたのだから――。


「でも今回はアタシが選んだわけじゃないから。時田が周りを敵に回すことしたのが悪いんだよ」


普段は横暴で自分勝手な後藤さんのセリフさえ、今回は事実で嘘がないから胸に鋭く突き刺さる。

いつもなら後藤さんに対して何か嫌な思いをさせた人、イラっとさせた人がターゲットになっていた。

それでもすごく理不尽な話だ。

だけど、今回は違う。

わたしの犯した罪を周りの人は軽蔑し、クラスという輪の中から追いやった。

「お前なんか傷つけ」とでも言わんばかりに、遠巻きに見ているだけで今まで何も関与しなかった第三者が、生贄のように差し出した。

夏休みの偶然の出会い、十分もしないくらいほんのわずかな出来事のはずだった。

あの時の出来事がこんなに大きくなって、わたしを苦しませることになるなんて思ってもみなかった。


「じゃあ、まずはみんなの代わりにアタシが聞いてあげる。この時のこと、教えてよ」


後藤さんがスマホの画面をわたしに向ける。

さっき見たばかりのわたしと大野くんが写っている画像だ。

みんなの興味がいっきに集まってくるのがわかった。