周りの雑音が遠のいていくと同時に、世界が色を失いモノクロになっていく。
今の状況を整理しようと、恐怖を無理やり押しのけほんの少しだけ顔を動かした。
ミライちゃんは感情が読み取れない表情でわたしを見ている。
一学期に地獄の生活をしていた子はほっとしたように胸をなでおろし、わたしと視線が合うと慌てて逸らされた。
他のクラスメイトは「ざまあみろ」とでも言いたげな人、自分じゃなくて良かったっと安堵している人、気まずそうな顔で俯く人、興味がない素振りでスマホを見ている人。
反応はそれぞれ。
だけど統一して、誰も考えないことがある。
助ける、ということ。
誰もそんなことは考えない。
頭にも浮かばない。
助けたら次は自分になるのがわかりきっているから。
自己犠牲の精神なんて、現実には存在しない。
少なくともわたしの生きるこの世界には。
「ねぇ、時田。わかってるよね?」
肩に手を置かれて顔を上げるしかない状況。
震える手でスカートをぎゅっと握りしめ、意を決してゆっくりと顔を上げる。
……死神が迎えにきたのかと思った。
目が合うとこの世のものとは思えない微笑みで、楽しそうに舌なめずりをした。
クラスカースト最上段の後藤さん。
クラスメイトからターゲットを一人決めて、その人を徹底的に攻撃して楽しんでいる悪魔みたいな人。
うちのクラスには弱いものいじめをする世界が広がっている。
誰もこの後藤さんには逆らえない。
嫌な思いなんて誰でもしたくない。
苦しみたくない。
だから、傍観者を決め込んで見て見ぬふりをする。
わたしもそうしてきた。
同じだ。
わたしがそうしてきたから、同じようにされるのは当然だ。