「放課後カラオケ行こうよ」
「行く。あ、でも掃除当番……」
「いいじゃん。勝手に綺麗になってるし」
「確かにそうだね。じゃあ行くよ」
「決まり。何歌おうかな」


後ろから聞こえてきた会話に、誰にも気づかれないよう小さく息を吐いた。

何気ない会話。楽しそうな声。
当たり前のような平和な日常。

それがどんな人の上で成り立っているのか、きっと考えたことはないんだろうな。

自分がいる場所、自分の見える景色しか見れていない。

世界って所詮はこんなもの。
汚くて荒んでいて愚かで狂っている。

誰かを下にすることで、自分は特別な人間なのだと勘違いをしている。

他人の上に立つことでしか、自分を保つことのできない人間。

なんて空しい人たちなんだろうか。

わたしはそんな空しい人の下で我慢をすることしかできない意気地なし。

ただの馬鹿な人間だ。


「……勝手に綺麗になるわけないじゃん」


悔し紛れに吐き出した言い返しのセリフは、宙に浮いて誰にも届かずに消える。

放課後。一人で掃除。

わたし以外の掃除当番は今ごろカラオケやら部活やらに行っているんだろうな。

別にどうでもいいけど。

最近はそんなことにも慣れてきた。

こんなところで自分の適応力の高さに気づく。

皮肉にもそれは、対人関係に活かされることはなかったけれど。