大野くんに対しての抜け駆けは誰であろうと禁止。
例外はない。
大野くんのことを本気で好きな人はたくさんいるんだろうけど、表立って話すことは許されない空気だ。
それはもちろんミライちゃんもだった。
大野くんの話をする時はいつも二人きりでひと気がない場所だったから。
親衛隊の過激派の人に聞かれたらどうなるかわからない。
それなのにわたしたちは今、大きな声で大野くんの話題を出した。
ミライちゃんも大野くんのことを好きだとはっきり宣言してしまった。
本来ならそれも目をつけられるんだろうけど、今はそれ以上に問題がある。
わたしが大野くんに告白され、キスまでしてしまったこと。
証拠の写真もあり、それがミライちゃんの手元にあるということは他の人の手元、ゆえに大野くん親衛隊の過激派の手元には確実にあるに違いない。
血の気が引いていくのがわかる。
ただ単に、一人の生活が始まるわけではない。
次に起こることが容易に想像できてしまった。
わかった瞬間に体が震えだす。
恐怖が波のように押し寄せてくる。
これからやってくるであろう地獄の生活を、今すぐ窓から飛び降りて全てを始まる前に終わらせたくなった。
周りの痛い視線を感じながら、自分の席に座って俯く。
「あーあ、やっちゃったね」
馬鹿にしたような笑いを含んだどこか楽し気な声が頭上から響いた。
俯いて下がった視線に上靴が入り、近い距離にいることが視覚的にもわかる。
恐怖で顔を上げることができない。
次は、わたしだ。
いつか来るかもしれないと思っていたけど、いざ本当に自分の番が来ると頭が真っ白になった。
もっと考えるべきだった。
考えれば簡単にわかることだった。
これはもう、わたしとミライちゃんだけの問題ではない。