でも、これは紛れもない事実。
あの時、わたしは大野くんといた。
偶然でもその事実は変わらない。
「友達だと思ってたのに」
「お願い、話を聞いて。ちゃんとこの時のこと、説明するから」
「いまさら? すぐに言わなかったくせに。こうやって噂にならなかったら、ずっと隠してるつもりだったんでしょ?」
何も言い返すことなんてできない。
本当にその通りだから。
わたしはミライちゃんにだけは言わないつもりでいた。
友達だから、言わないほうがいいと思った。
言ったらミライちゃんを傷つけるって思ったから。
「友達なら何でも言ってよ。隠すってことは、やましい気持ちがあったんでしょ? 本当はもう付き合ってるんじゃないの?」
「付き合ってない! ちゃんと断ったよ」
「は? 何それ。調子乗ってる?」
わたしのセリフが気に障ったのか、さっきよりも強めに返ってくる。
怒らせたくて言ったわけじゃない。
早くわたしの気持ちを伝えたくて言い回しを考える余裕がなかっただけ。
ミライちゃんを裏切りたいわけじゃないって説明したいのに、気が動転してどう言葉にすればいいのかまで頭が回らない。
「大野くんに好かれてるだけで、わたしは全然好きじゃないんですってこと? まじでうざい。調子乗んな。ちょっとかわいいからって何でもしていいと思うなよ」
「違うよ。落ち着いて話し合お……」
「うちが一人で興奮して怒ってるみたいじゃん。そういうのもうざい。悲劇のヒロインぶってんじゃねぇよ!」
ミライちゃんの罵声が教室に響いたあと、静寂に包まれる。
時間にすればほんの数秒。
だけど、体感では数分。
それくらい長く感じられた。
何か言いたいけど、上手く伝えられる言葉が見つからない。
今、彼女に何を言ってもきっと伝わらない。
けど、言わなきゃ伝わらない。
わかってるのに、言ってこれ以上関係が悪化するのが怖い。