「……いきなりキスしてごめん。でも俺、本気で時田のこと好きなんだ。俺と付き合うこと、考えてほしい」
大野くんの表情に息が詰まり、呼吸が苦しくなる。
真剣に伝えてくれているのに、わたしはひどいことを願った。
大野くんみたいな人気者が、わたしに好意を寄せてくれていたことは全く知らなかったし気づかなかったから驚いた。
素直に嬉しいという気持ちもある。
でも、嬉しい気持ち以上に他のことで脳内が埋め尽くされるんだ。
「……ごめんね。付き合うことは、できない」
だってミライちゃんの好きな人だもん。
付き合うことなんてできるわけがない。
ふわっと爽やかなソーダが香ると同時に、アイスのせいか冷たさを帯びた唇の感触を思い出して、罪悪感が押し寄せてくる。
初めてのキスをこんな形で、友達の好きな人としてしまうなんて思わなかった。
「そんなすぐに答えを出さなくてもいいから。ゆっくりと考えてほしい」
「ううん、考えても変わらないから今答えを出させて」
ベンチから立ち上がり大野くんの目の前に移動し頭を下げる。
気まずくて顔なんて見ることができないから、頭を下げなきゃいけないこの状況に少しだけ安堵があった。
「大野くんと付き合うことはできません。ごめんなさい」
自分でもひどいなって思う。
真剣な気持ちをこうもスパッと跳ねのけようとしているんだから。
でも、うやむやにするのはもっとよくない。
それにミライちゃんが大野くんに恋をしている姿を隣で見てきたから、裏切るようなことはできない。
ミライちゃんのことを抜きにしても、わたしの中で大野くんのことは同級生以上に意識したことがない。
これから変わるかも、なんていうことはミライちゃんのことがあるからきっと、いや、ぜったいにない。
大野くんは男女問わず人気者の同級生で友達の好きな人。
前も今もこれからも、ずっとそんな認識下にいるに違いない。