そんなことを思い出していると、深呼吸を繰り返している大野くんは真っ赤な顔でわたしを覗き込む。
「時田に会えてラッキーだった。……ほんとに会えると思ってなかったけど来てよかった」
自分で言ったのに恥ずかしくなったのか、わたしから顔を逸らしてタオルで顔を隠してモゴモゴしている。
その行動には少しだけかわいいと思ってしまった。
男女問わず人気の理由はこういうところもあるのかな。
大野くんといえば誰にでも優しくて話しやすいし、一年生の春から試合のベンチ入りメンバーで期待のエースと言われている。
例えるならまさに今、この世界を照らしている真夏の太陽みたいな人。
現にわたしがいつも学校で一緒にいるいちばんの友達のミライちゃんも、大野くんに恋をしているひとりだ。
「あー、ほんとあちぃな」
体の向きを真っ直ぐに戻してからカッターシャツの胸元を掴んでパタパタと扇ぎ、前髪をかき上げる。
その仕草は妙に艶っぽくて、思わず見入ってしまった。
大野くんとふたりでここまでゆっくり話すのは初めてだけど、すごく雰囲気がやわらかい。
「アイス、一口ちょうだい」
再びわたしの顔を覗き込んできた大野くんの瞳は真っ直ぐすぎて動けなくなった。
さっきのかわいさはどこへやら。
強い眼差しは目を逸らすことを許さない。
動けないのは目や体だけでなく、思考もそうみたいで、頭の中が真っ白になった。