「時田の家ってこの近く?」
「歩いて二十分くらいかな」
「そうなんだ。今日は買い物?」
「うん。お母さんに頼まれて」
「こんな暑い中わざわざ歩いて?偉いね」
「それを言ったら、こんな中で部活してきた大野くんのほうがすごいよ」
「まぁうちのサッカー部って何気に県ベスト8だから。しんどいのはしんどいけどな」
「熱中症には気をつけてね」
「さんきゅ」


太陽にも負けない笑顔を向けられた。

顔をくしゃっとさせる無邪気なこの笑顔で、今までどれだけの人を虜にしてきたんだろう。

親衛隊の人数も日に日に増えて、今では同級生だけでなく先輩と後輩も加入していると噂だ。

わたしはそれに入っていないから本当かどうかは知らないけど。

溶け始めたアイスの上の部分を噛んで口の中で溶かす。


「歩いて二十分ってことは徒歩通?」
「ギリギリ徒歩通だよ」
「うわ、それきついな。あと数百メートルとか?」
「あと七十メートル足りなかった」
「誤差じゃん。それはチャリ通でいいだろ」
「だよね」
と頷いてまたアイスを口に入れる。

そこでふと思い出した。


「大野くんは電車通学だっけ?」
「そうだよ」
「どこか行く用事でもあったの?」


わたしたちの通う高校から近い場所とはいえ、この公園は駅と方向が真反対の位置にある。

なんとなく疑問に思っただけだった。
なのに大野くんはあからさまに動揺を見せて驚く。

耳まで真っ赤にさせて、視線をわたしから逸らした。


「今日は、その……あ、電車の時間に余裕があるから暇だしたまには散歩がてら遠回りしてみようと思って」
「そうなんだね」


クイズの早押しでひらめいて答えるように言っていたけど理由には納得する。

わたしの住む田舎は都会と違って電車が頻繁に来るわけじゃない。

一本逃せば次は一時間後だ。

朝など通勤通学で使う時間は四両編成だけど、基本的には一両で電車が走っているくらい田舎。

都会から来た先生が初めて田舎を通る電車を見た時は『線路をバスが走ってる』と驚いたらしい。

それには思わず笑っちゃったな。

ずっとこの街に住んでいるわたしは当たり前すぎて、何も不思議に思ったりはしなかったけど。