「わかるわけがないのに、そう思いながら話したんだ。でも真剣に聞いてくれていた。ちょっと大人げなかったと思って謝ったんだけど莉緒は無邪気な笑顔で〝ユイくんといると楽しい〟って言ってくれた」
わたしはユイくんのことをお兄ちゃんと取り合いするくらいにだいすきだったから、ユイくんと遊んでもらったことはよく覚えている。
公園で鬼ごっこしたこと、海に一緒に連れて行ってもらったこと、生まれて初めてバレンタインのチョコレートを渡した相手もユイくんだ。
ユイくんとは高校卒業して大学進学するまでの間はたくさんの思い出がある。
全てを思い出せないほどにたくさんの思い出が。
今、ユイくんが話してくれている話はそのうちのひとつだ。
正直、わたしはあまり覚えていない。
だけど、ユイくんといると楽しいという気持ちはいまも持ち続けている。
現在進行形でそう思っている。
「何をしていても、どんなことをしていても、これから変わっていったとしても、俺が俺である限りかっこいいって言ってくれた」
それ、ユイくんがわたしにかけてくれた言葉と同じだ。
数年の時を経て、わたしに戻ってきたんだ。
「俺が社長になるって言ったら? って質問したら、〝ユイくんならかっこいい〟って言ったんだ」
わたしはいつもユイくんかっこいいしか言っていない。
でも、本当にユイくんはかっこいいから。
恥ずかしくて顔を逸らすように空を見れば、星はほとんど見えなくなっていた。
右のほうの空が少しずつ白んできて、淡い水色に染まり始めている。
それと同時にさっきまで目の前に点々と見えていた街灯が濃い霧によってぼやけていき、やがて見えなくなる。