「俺はわかるよ」
言葉を続けるユイくん。
わたしは隣に座るユイくんに意識を集中させる。
「莉緒を助けてくれた人の言っていたことが、俺にはすごくわかる。同じだから」
わたしはわからないと思った。
だけど、ユイくんにはわかった。
それはどうしてなのか。
やっぱりわたしにはわからない。
「莉緒が話してくれたから、今度は俺の話をするよ」
ユイくんはぽつりぽつりと話し出す。
言葉にしていく。
その時のことを懐かしむように。
大切に、ゆっくりと言葉を紡いでいく。
「俺が今の莉緒と同じ高校二年生の時、家のことで悩んでいる時期があった」
ユイくんの家は、大きな会社を経営している。
お父さんは社長さんだ。
難しいことはわからないから、どんな会社なのかとかくわしくは知らないけれど。
「俺は一人っ子だから当然のように、小さい頃からこの会社は俺が継がなければいけないって言い聞かされてきた。だけど、だんだんとそれがプレッシャーに変わった。簡単なことではないと知った」
年齢を重ねるごとに難しくなっていく。
知識が増えれば増えるほど、現実を目の当たりにして行動できなくなる。
感情にストップがかかる。
「敷かれたレールの上をただ走り、少しでも逸れれば落胆される。勝手に期待されて勝手に呆れられる。そんな生活が高校生になってからは特に強く感じられるようになった」
昔を思い出しながら話すユイくんの姿はなんだか寂しくて苦しくて、胸がぎゅっとしめつけられる。
「季緒と遊んでばかやって笑っているほうが何倍も楽しいし充実してた。でも、それだけじゃだめだっていうのもわかってた」
あの頃はお兄ちゃんといつも遊んでいた。
それはわたしもよく覚えている。
毎日のように家に来たり、お兄ちゃんは遅くまで帰って来なかったり。
いつも楽しそうにユイくんのことを話してくれていて、わたしも連れて行って、家に連れてきて、一緒に遊びたいってぐずっていた。
わたしはその時からユイくんがだいすきだから。
「俺は何のためにここにいるのか、わからなくなってた。もう全部投げ出してもいいって思う。けど、投げ出したところで別にやりたいことがあるわけじゃない。俺はどうすればいいんだろう。ずっと考えていた」
今のわたしみたいに、たくさん悩んでいたんだ。
わたしが見るユイくんはいつも余裕があるから、知らなかった。
昔のユイくんも余裕があってかっこよく思っていたから。
そんなふうに悩んでいることに気づかなかった。
ユイくんが高校二年生ということは、わたしは小学六年生だから気づかなくても不思議ではないのかもしれないけど。
「季緒が学校に呼び出されて一人、季緒の部屋で待ってる時があった。その時に莉緒がこっそり部屋に入って来たことがある」
わたしってばいつでもユイくんと遊んでもらえる機会をうかがっていたからなぁ。
と、当時のことを思い出す。