「トレッキングって会話しながら上れるくらいがちょうどいいらしいよ」
「か、会話なんてとんでもない……」
呼吸が上がってしまい、しゃべることなんてできない。
登ることに一生懸命になり会話なんてできる状態にならないから。
だんだんと道幅も狭くなり、木々や草が近くなる。
水の音も聞こえてきて、そういえば上がる前にあったマップに滝があると書いてあったことを思い出す。
「よいしょ。よいしょっと」
「大丈夫か?」
「うん。掛け声ないと登れない」
「ふっ、そっか」
鼻で笑われた。
それでも掛け声がないと体が動かないのだから仕方がない。
階段の一段の高さもなぜか上がっていっている。
はじめに比べてずいぶん高くなった。
膝くらいの高さはある段差を一段一段気合いを入れて登る。
途中で鳥居や祠が見えて、手を合わせた。
「ついたな」
そして四十分ほど頑張って登り続け、なんとか目的地へとたどり着くことができた。
そこは展望台のようで、少し開けており三段の大きな段差があった。
「はい、これ敷いて」
「ありがとう」
ユイくんに渡されたのはシート型の座布団。
ピクニックとかで使ったことあるアウトドアのグッズだった。
段差の手前に敷いてからその上に座り足を投げ出す。
頑張って登ってきたから足はガクガクで、汗もかいてすごく暑い。
両手でパタパタと仰ぐ。
「やっと休憩」
「うん。ゆっくりして」
軽く伸びをして上を見ると満点の星が広がっていた。
ここもすごい。
降ってきそうなくらいたくさんの星がここにいると存在感を放っている。
たくさんありすぎてやっぱり星座はわからない。
どれがどの星座になるのか、わからない。
それでも綺麗で夢中になってしまう。
すぐ星に釘付けになった。
夜空って不思議な力がある。
「いろんな場所で、こんなにも綺麗な星空を見ることができるんだね」
ユイくんと見たあの場所だけではなくて、他にも綺麗な星空を見れる場所はある。
ここも変わらず綺麗だ。
「そうだな。莉緒の家の前の空も本当はこんなにたくさん星があるんだ。見えていないだけで」
見えていないだけ。
だけど、本当はそこにある。
なんだかそれってすごく寂しいものに感じてしまう。
そこにあるのに、見えないだなんて以前のわたしたみたいで……。