「綺麗だなぁ」


思わず言葉がもれる。

この場所から、この時間でないときっと見ることのできない景色。

今、ここにいるから見える景色。


「ね、ユイくん。綺麗だよ」


話しかけるも反応がない。

それでも景色から目を逸らさない。


「ユイくーん?」
「あの、たぶん上にいますよ」
「え?」
「明かりが止まっています」
「ほ、ほんとですね。すみません」
「いえ」


ペコっと頭を下げると、話しかけてくれた人も頭を下げてから山を登っていく。

は、恥ずかしい……。

それに、わたしたちと同じでこんな時間に山登りする人はいるなんて……。


「何してんだよ。俺はこっち」
「そうみたいだね」


わたしより五メートルほど前に進んでいたユイくんが戻ってきてくれる。

ライトがわたしの顔を照らし、眩しくて手で顔を隠す。


「知らない人に絡んでんなよ」
「か、絡んだわけじゃなくて、この景色見てたの」
「ここ?」
「うん。綺麗だなって思ってユイくんに伝えようとしたら、知らない人だった」
「やっぱり莉緒は心配だわ」


わたしの頭に手をぽんと乗せて、優しく撫でてくれた。


「確かに、綺麗だな」


ユイくんと少しその場に立ち止まり景色を見る。

特に何かが変わるわけではないけど夢中で見てしまう。


数分、そこで立ち止まってからやっと動き出す。


「もう少し、ゆっくり行ってほしい」
「わかった。はじめから言ってくれてよかったのに」


少し言い方に含み上がる。

もしかしたら、

「わざと?」
「ついてこられるかなって思って」


いじわるだ。

これはユイくんのいじわるに違いない。
そういうとこあるよね。

むっとしてユイくんの脇腹を軽くグーで押すと、笑われてしまった。

さっきよりもペースを落としてわたしに合わせてくれる。