「莉緒。起きろ」
「……うぅ」
肩を軽く揺すられながらわたしを呼ぶ声が聞こえ、うっすらと目を開ける。
ぼやっと人の影が見えた。
この影は……。
「あ、ユイくん!?」
「おはよう。三時半に起こすって言っただろ?」
「お、おはよう」
反射で挨拶を返すけど、こんなに早い時間に「おはよう」だなんて、本当にその通りだと思った。早すぎるくらいだ。
思いのほかぐっすり眠っていたから全く夢を見ていないし、短時間で質の良い睡眠をとれた気がする。
ちょっとだけスッキリしている。
「動けるか?」
「え?」
「山、登るぞ」
「あ、え、う……へ?」
「ほら、行くぞ」
声をかけるとユイくんは運転席のドアを開けて外に出る。
まだしっかりと働いていない頭を無理やり動かして、わたしの体にも外に出るよう指令を出した。
助手席のドアをゆっくりと開けて一時停止する。
「ユイくん、山を登るって……」
「そのまんまの意味。行くぞ」
まだあたりは真っ暗。
だって今は三時半。
日の出にはあと二時間と少しかかる。
車から降りると思ったよりも空気と風が冷たくすぐに目が覚めた。
助手席のドアを閉めてからユイくんの隣に行く。
真っ暗でしっかりと見えないけど、ユイくんが懐中電灯をつけてくれたおかげで足元がよく見えるようになった。
「けっこう大変だけど莉緒ならいけると思う。若いし体力あるし」
「うん?」
よくわからないけど、ユイくんについて歩く。
山に入る前に三百円をポストの中に入れてから、登り始める。
始めから大きめの石や砂利、階段などがありけっこうキツイ。
どこに向かっているのだろうか。
ユイくんはトレッキングをしたかったのかな。
こんな日も登ってない時間から。
頑張ってユイくんの後ろをついて行くけど、少しずつ息が切れてきた。
わたし、体力なんてないよ。
運動は普段の登下校と体育でしかしていないんだから。
それだけではなかなか体力はつかない。
だんだんと足が重たくなっていく。
ふと止まって隣を見ると、薄く霧がかっている。
白く薄いベールのように町全体を覆っていた。
街灯がベールをかぶりぼんやりと照らす。
けっこう登ってきたみたいで家などの建物が小さく見える。